【2021年版】海外の垂直農法技術ダイジェスト


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2021/07/08
合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

現在海外では欧米を中心に、大規模施設内での垂直農法に取り組むスタートアップ企業への先行投資が活況で、多くの投資家やファンドによる資金流入が度々ニュースになっており、このブログでも度々取り上げています。

参考|iFarm社のAIとドローン技術を軸に都市郊外のオートメーション化農場を展開する事業に400万ドルを調達

参考|Iron Ox社が米カリフォルニア・ベイエリア郊外に完全オートメーション化農場を建設予定で2000万ドルを調達

参考|新方式の密閉施設で植物を育てるプランテックスの最新技術

参考|都市で野菜を育てる垂直農法の「Infarm」が1.7億ドル調達

このブログでは、これから伸び代の大きいと思われる垂直農法の今にスポットを当て、アップデートを繰り返しながら、「旬な」技術の話題をまとめてみた記事内容になっております。


エアロポニクス

エアロポニクス(Aeroponics)はまだ比較的歴史の浅い造語であり、日本語で訳すと"水耕栽培"になります。

一方で英和辞典を引くと従来の水耕栽培には
Hydroponics(ハイドロポニクス)という造語があると分かります。ハイドロ-の語源は「水」を表す意味合いがあり、これまでの水耕栽培は土を使わないで養分を含んだ液体の中で野菜を育てる農法を指していました。

現在研究段階にある水耕栽培技術は、土壌を必要とする露地栽培や従来の培養液の中で育てる単純なハイドロポニクスとを区別し、全く新しい手法で構築された革新的な代替技術であることを強調するため、
「エアロポニクス」という言葉で(流行るかどうかは別として...)呼ばれているそうです。

海外の露地栽培の事情で、焼畑農業を含む従来の露地栽培手法を維持するために必要な土壌が必要になり、人間の手による農地拡大が原因で、これから益々土壌不足問題が深刻化してくると予想されています。

また世界規模で激甚化する気候変動の懸念もあり、次世代の農業技術であるエアロポニクスに注目が集まり、特にその一つである
垂直農法は今後大きな市場規模になると目されて、海外の投資家から注目トレンドとして大いに期待されているようです。

垂直農法の生産性はほぼ
空間(エアロ-の接頭語はここから来ていると思われる)に依存するので、従来の農業目的で必要な水と耕地面積がほぼ95%節約できると言われています。

エアロポニクスは本来、宇宙分野などの極限環境下で植物を育てるという目的もあり、特に宇宙分野進出を国策に掲げる先進国の中でも多くの研究と開発が先行していているホットな研究分野でもあります。

エアロポニクスをいち早くビジネスに取り入れたと言われる垂直農法のパイオニア的企業である
AeroFarms社は、2004年の設立以来、革新的な垂直農法の研究に取り組み、2021年4月にはモデル5ファームと呼ばれる、これまでで最大規模の最新鋭屋内型空中垂直農法施設を稼働させています。

同社は独自のエアロポニックス技術で知られており、エンジニアリング・データサイエンス・栄養工学・食品安全管理・遺伝工学などの利点を複合的に組み合わせて、トマト・イチゴ・葉物野菜を主力に550種類以上もの植物を安定的に生産しています。

完全屋内生産ですので、天候や季節の影響を全く受けずに生産することが可能で、世界中のどこでも施設を建てることさえできれば、世界中で起こりうる壊滅的な食糧危機問題の一つの解決手段となるインパクトさえあると言われています。

国連の推定によると、世界の人口は2020年〜2050年の間にかけて78億人から97億人へと急増すると予想されています。

特に都市部での人口が爆発的に増加し、2050年ではほ全人口の3分の2が都市部に住んでいるという可能性が指摘されています。

都市部で急増する人口の食料需要に応えるためにも、今後数年間の間に持続可能な食料性の高い農業技術の確立が強く求められているのが現状です。

逆に言うと、都市部の人口を多く下支えできる食料供給技術を持った国が、より高い産業生産性を得られるため、GDPも成長しやすくなり、より豊かな社会を実現するためには必須な産業分野になることが予想されます。

まさに今後全ての国が抱えるであろう様々な問題に対し、環境負荷の限りなく少ないエアロポニクスが一つの救済策となるであろうことが疑いようなないと思われます。

試算では、垂直農法は従来の農場の約240倍の収穫量を可能にし、最大99%少ない土壌面積と98%少ない農業用水の消費量を実現できると言われています。

完全に管理された環境資源に基づいて運営することが出来るため、たとえば空の倉庫・高層ビルの空きテナント・輸送コンテナの内部などでも、垂直に積み重ねられるスペースがある限り、食物の生産が行えるようになります。


垂直農法のためのAI・ロボティクス

都市農業に革命を起こすために、重要な2つの分野をあげるとすると、一つは人工知能技術、もう一つはロボット技術が挙げられます。

現状、農業は人間の労働によるものが避けられませんが、垂直農法が描き出す未来では、人間が直接手を動かすことなく植物が生産できる段階にまですることが究極の目標として掲げられています。

農業分野の研究機関のレポートによると、調査対象のアグリテック企業の半数以上が、2021年度に人工知能分野への支出を増やす計画であり、2割程度はすでに先行投資として予算を増やしています。

現時点でもかなりの企業の産業部門が、AIベース機器やツール開発に力を入れていることが分かります。

AIを活用したツールとロボットを活用することで、土壌状態・水・作物収量・光量などのデータが常に管理され、植物の発達をリモートで制御できるようになり、農業従事者は従来の辛い肉体労働から開放されることになります。

たとえば、
以前このブログでも取り上げたPlenty社では、高度な気候制御された最先端の垂直農法を取り上げました。

散水、温度、照明を制御するAIを搭載したロボットを備えた垂直農場により、わずか2エーカーの農地で720エーカー相当の収穫量を生み出すことができます。また、この施設はLEDパネルを利用して太陽光を再現し、24時間成長するためのより最適な条件を作り出しています。さらに蒸発した水の回収・浄化リサイクルの取り組みにより、従来の農場よりも無駄が少なくなります。その結果、AIとロボットを活用した垂直農法は、土地と水の両方の使用をそれぞれ99%と95%も削減する際に欠かせないことを示したと言えます。


循環型農業のもつ産業へのポテンシャル

国際経済の研究グループの取りまとめによると、全世界での経済活動によって重さにして90兆トンを超える量の天然資源は年間で消費されてしまうそうです。他方でこれら消費する資源のうちわずか8%しか再利用されていないという現状があります。

近年の目覚ましい(特に新興国での)工業化の急増に伴い、資源需要の増加と気候変動に大きな影響を与えています。その結果、干ばつ・洪水・水不足などの甚大な気象災害が全世界規模で発生しています。状況はさらに悪化する恐れがあり、国際社会は一丸となって激甚化する気候変動に何らかの対策を行い、同時に原因となっている各国の経済情勢を改善させなければなりません。

その解決の糸口の一つとして挙げられるのが、消費される資源を可能な限り循環させて利用する経済モデルを
「サーキュラーエコノミーモデル」と呼びます。

農業分野でもこのサーキュラーエコノミーモデルを統合した垂直農法を目指すための取り組みを行っているスイスを拠点とする新興企業
YASAI社は、次世代の農業技術で実現できるコンセプトを考案しています。このコンセプトによれば、消費者はより少ないコストでより多くの生産性を獲得し、持続可能な食品生産システムを構築することが可能となるようです。

同社は大学発のスタートアップとして、世界でも最小国の一つであるスイス内で、放棄された石灰石採石場を世界最大の垂直農法施設に変えることを目指して設立されました。

この施設のユニークな特徴として持続可能・循環性に焦点を当てながら、施設内の消費エネルギーを軽減するため、コンクリート・廃水中の栄養素・循環冷却剤などのかつての採石場設備の再活用や、屋上雨水を利用した灌漑システムの構築、天井を介して施設内部冷却を可能にする地中熱ヒートポンプ、バイオ廃棄物を再利用した発電システム、コンプレッサーで再捕捉したCO2を利用する植物の成長促進装置などを備えているようです。

同社の垂直農法は現在、年間で約3,525トンもの潜在的な食物量を収量する計画に取り組んでおり、さらに年間約614トンのCO2回収できる垂直農法技術の研究と開発が進んでいるようです。

垂直農法の市場規模

垂直農法の市場規模は、2020年度にも約45億ドルほどに達し、2021年〜2027年にかけて年平均成長率で23.2%という急速な成長が期待されています。垂直農法では、通年で高品質の作物を安定的に生産できるため、業界の成長にもプラスの影響を与えます。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

出図:
https://www.gminsights.com/industry-analysis/vertical-farming-marketより抜粋

垂直農法施設内の空間は、温湿センサーで制御される空調/湿度コントローラなどのさまざまな機器が内蔵されて管理されています。このため、露地栽培や従来の施設農法と比べて、気候の影響は受けず自然災害の有無で生産計画が止まることはありません。

地球規模の気候変動の影響をより受け辛いというアドバンテージが、投資家に高い評価を受けて、今後も更なる資金の増資が見込まれています。

特筆すべきは成長著しい太平洋アジア地域(調査対象は中国・インド・日本・韓国)の成長需要で、2027年までの年平均成長率(CAGR)で24%とかなりの高水準になるとされています。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

出図:
https://www.gminsights.com/industry-analysis/vertical-farming-marketより抜粋

このレポートによると、成熟した先端技術産業が根付いた地域であり、少子高齢化で都市部への一極集中傾向が続く日本の垂直農業市場の伸び率が高い成長水準で予想されているようです。

参考サイト

2-Acre Vertical Farm Run By AI And Robots Out-Produces 720-Acre Flat Farm

Vertical Farming Market Size By Product, 2021 - 2027

記事を書いた人

記事の担当:taconocat

ナンデモ系エンジニア

個人レベルで可能なハイテクx農業を日々模索しています。 時折スマート農業界隈の気になったニュースなどもゆるく情報発信する感じです。