[海外 x スマート農業] 大都市郊外の自治体と取り組む先進的な農業テック企業の取り組み


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2020/11/23

アメリカ・カリフォルニア州コンプトン地区の
Plenty社の植物工場では、大規模な垂直式スマート農業が行われているようです。本ブログでは、垂直式の完全閉鎖空間における新しい農業を何回か取り上げていますが、今回はスマート農業と地域産業のマッチングに取り組んでいる話題をアーカイブしてとして紹介します。


大都市郊外に進出する植物工場

サンフランシスコを拠点とするスタートアップの農業法人であるPlenty社で行われいる工場内の垂直農法は、完全に閉鎖された室内環境下で垂直に積み重ねられた特製の多段式のベッドを利用して、自然光・土壌なしでもこの完全に人工的なプロセスによる高品質で栄養価の高い野菜の大量生産を可能としています。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

Plenty社の植物工場内の垂直式農法の様子, 出図:
https://laist.com/2020/10/06/plenty_vertical_farm_compton_agriculture_technology_ag-tech_of_the_future_might_be_in_compton_warehouse_robots.php

この栽培方法はまだまだ従来の露天栽培と比較してもコストが割高ですが、ビスネスとしてはなかなか好調のようで、サンフランシスコ南部にあるPlenty社の一号プラントの2018年創業後から現在まで順調に売り上げを伸ばし、今後もさらに生産体制が増強されていくでしょう。

同社の現在の計画では、特に人口が100万人以上で人口密度が高い都市の近郊に、少なくとも500箇所の垂直農法のできるプラント工場の建設を海外展開していくようです。そこでグローバル展開を見据えたモデルケースとして、ロサンゼルス郊外の田園都市コンプトンを選定し、さまざまなビジネスモデルの検証を行っていく方針です。

Plenty社の長期的な目標は、おいしいサラダグリーンを提供すると言うだけではなく、食品として栄養価の高い健康的で安心安全な農作物を分け隔てなくあらゆる人に届けることで、アメリカ社会に蔓延る
食料格差を取り除くことにあります。さらにコンプトンでの生産がロサンゼルス都市圏へ向けたより良いサービスを提供することに繋がり、同時に地元農業への雇用を増やしたり、地域経済の活性化の面でも良い社会貢献となるとも考えているようです。

現在の目標としては、先行して稼働しているサウスサンフランシスコにある垂直農法工場で得られたノウハウと実績を生かしながら、このコンプトンでも最先端の植物工場をフル稼働させて、何百もの食料品店に十分な農産物を安定的に供給できるようにしたいとのこと。

すでに2020年8月初旬の段階で、カリフォルニアの430店舗に葉物野菜の詰め合わせを提供することで大手のスーパーとの提携に成功し、コンプトン工場の生産ラインでは、最初に売れ筋である有機葉物野菜のターゲットとして、ケール、ルッコラ、フェンネル、チンゲン菜の生産に注力しているようで、果物もイチゴなどをレパートリーに追加する予定のようです。ただし、当初の予定では2020年末までにこれらの農産物を順次出荷することを計画していたようですが、新型コロナウイルスの大流行によりその予定が大きく変わり、現在では2021年内のタイミングを見計らって最初の出荷分をお客への配送開始できるように調整中のようです。


垂直農法の必要性

垂直農法を行うことのアドバンテージの全ては究極の効率と言い換えても過言ではありません。この全ての工程において、農業作業者が、光・酸素・栄養素・温度・湿度・二酸化炭素のレベルを制御・監視・管理・解析できるようになり、しかも一年中育成と収穫をすることができるので、もはや農業に季節という概念すら必要がなくなるのです。

Plenty社の植物生育とアプローチは、作業のオートメーション化・複雑なセンサー・機械学習の活用、特徴的な水耕栽培タワーで実現してて、作物には、もはや土壌は必要とせず独自に配合された栄養液飲みで栽培されます。この方法は、非常に少ない農業用水の消費で、従来の露天栽培農法と比較して1平方フィートあたり最大350倍の農産物を栽培できると同社調べで試算されています。つまり、垂直農法は、野外の作物生産よりもはるかに水利用効率が高いため、例えば従来は降雨量が少ない土地でもさまざまな野菜が問題なく生産できることを意味しています。

近い将来直面するでろう地球人口の急激な増加による少ない生産作付面積と限られた水資源の問題を見据えて、より少ない土地でより多くの食糧を生産することが必須です。2050年までに、地球には98億人の居住者に達し、その3分の2程度が都市部に住むようになると予想されており、ロサンゼルスやニューヨークのように現在不動産が高騰しているような都市部においては多くのスペースをとらない垂直農法が一般的になる未来も来るかもしれません。

また物流の観点からも垂直農法は優れています。現状はトラックや飛行機・貨物船などで数百キロ先から届けられる青果品も、理論的には生産拠点から最寄りの食料品店、市場、またはレストランなどの消費地まで数キロしか移動しないので品質が劣化する可能性も低くなります。

さらに、食品サプライチェーンの回復力を高めるのに役立つ可能性があります。今年2020年3月以降で新型コロナウイルスによるパンデミックは、農業製品のありとあらゆるものに影響を及ぼしており、地方の観光業・飲食業などが甚大な打撃を今も受け続けています。農業も例外ではなく、消費地の需要の落ち込みを受けて、農作物の半分しか買い手が付かなかったりなどで余った野菜を廃棄するしかなく、その廃棄量・廃棄費用でもかなりの痛手を被っているようです。

皮肉にも、コロナウイルスによる社会的な混乱から、現在の食品サプライチェーンの弱点として、現在の食品サプライチェーンは多様性に乏しく、特定の作付け食物に特化した農家・生産団体が生産計画が唐突に狂ってしまうと、その変化を受けても急には軌道修正できずに、行き場を失った農業製品の大量破棄という事態に陥ってしまうことを明らかにしました。

垂直農法は、即時の生産計画修正が可能であり、さまざまな農作物の種類を扱うことができるので、不測の事態があった時も生産量も調整が可能であり、変化に強いという特徴があります。このことは柔軟性が高く変化に強い食品サプライチェーンを構築することに貢献できると考えられています。


コンプトンの垂直農法工場

さて、最新の垂直農法工場・通称コンプトンファームはまだ建設途中にありますが、既存のサウスサンフランシスコの工場を元に設計され、さらにそこから先進的な機能を拡張しながら施設造りが進められてます。

この施設自体は遡ること2015年にコンテナファームとして開始されており、のべ5万平方フィートの生産スペースと約1万平方フィートの栽培室を有しています。現在は約40の食料品店に野菜を提供しており、その野菜の生産全てで、太陽光発電と風力発電で100%稼働させる体制を整えました。

コンプトンファームは、これまで同社の培ってきたノウハウの蓄積を元に設計された栽培システムを備えており、工場内のオペレーターは主に種子を苗まで育てる工程を栽培室にて監視します。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

苗を育てる栽培室の栽培ベッド, 出図:
https://laist.com/2020/10/06/plenty_vertical_farm_compton_agriculture_technology_ag-tech_of_the_future_might_be_in_compton_warehouse_robots.php

専用のロボットを操作し、巨大な緑の壁のように見える大きな垂直成長タワーへとある程度成長させた苗を移します。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

植物工場内の垂直式農法に使われる成長タワー, 出図:
https://laist.com/2020/10/06/plenty_vertical_farm_compton_agriculture_technology_ag-tech_of_the_future_might_be_in_compton_warehouse_robots.php

作付植物が栽培室で費やす時間は種類によって異なり、例えば葉物野菜の一つが苗の生産から収穫までの全プロセスを2〜3週間で完了することも可能になっているようです。ちなみに種子から収穫までの期間を、これまでの伝統的な農業によって栽培された場合と比較した場合、これは圧倒的に短い時間で出荷できるということらしいです。

例えば、通常の大規模な屋外農場で育つベビーケールは収穫の準備が整うまでに通常35〜50日かかるので、これはかなり高効率な生産方法です。

また、オートメーションの技術も目を見張る進化があります。種子から発芽した植物は栽培室でしばらく過ごすことになりますが、さらに苗から葉物野菜へと成長させるためにロボットアームが垂直成長タワーへ移動させ、さらに出荷の最適時期を迎えた農産物をロボットが回収し、梱包処理エリアへ移動され出荷されます。そのプロセスすべてを通して人間の手は決して農作物に触れることがありません。極端な話、害虫や病気、そして人間の手でさえ接触がない完全クリーンルームで完結した栽培を行っているので、この工場から出荷される農産物は洗うという工程は全く必要ありません。

さらに栄養価の高い野菜に仕上げるための温度・水・培養液・光量の微妙な調整を施すことで、消費者に好まれる風味というのもコントロールされてるということらしいです。


最新の垂直方法事情

ここ最近のアメリカのスマートテックの情勢に着目していくと、完全なデジタル管理された密室空間内での垂直農法を売りにしてる色々なスタートアップの企業が誕生しています。

人類が1万2千年前ごとから伝統的な畑作を始めたされていますが、垂直農法はまだ始まって数十年ばかりとあまりにも短い歴史しかありません。なお最初の垂直農法の原型の一つとして1950年代初頭にアルメニアに建設された水耕栽培システムというものもあったと言われているようですが、それに関する文献はあまり残っていないようです。

アメリカにおける現代垂直農法は、20年ほど前のコロンビア大学の環境衛生学の研究グループの成果によって普及したとされています。その研究グループでは、1999年ごろから、ニューヨーク都市圏の消費者に、完全に市内で栽培された農作物を提供できる方法を模索・研究しており、当初はビルの屋上庭園から始めましたが、生産できた量は微々たるものでした。その後、街中で使われなくなって廃墟同然となった建物を利用し、この屋上で設置していた栽培システムをこの中に何もない建物の空間に満たすことで、食料生産を増やすことができるのではというアイデアに発展し、その結果、農作物が層を成して互いに積み重なったマルチレベルの垂直農業が生まれる契機となったようです。

21世紀まで、商業的な垂直農法はユートピアのようなもののように見えました。これは、一握りの未来派や農業技術者によって伝道された、非現実的な壮大な夢でした。しかし、ここ数年、関心が急上昇し、ベンチャーキャピタルも増えています。

特に2016年から2017年の間に、垂直農法への投資はほぼ8倍と顕著に増加しました。Plenty社は、2017年に著名な投資家から2億ドルを調達に成功しています。また東海岸の競合の一つである
BoweryFarming社も、同様の期間に9千万ドルの投資を受けています。

この動きはアメリカだけではなく国際的な動きもあり、2020年8月には
中東ドバイのバディアファームは、水耕栽培技術と垂直成長タワーを使用して年中青果品を供給できる生産体制を整えているというニュースもありました。

エアロポニックス(培養液を勢いよく霧状噴射させ、培養液が空気中の酸素を取り込みながら植物の根から栄養分を吸収を促進させる装置)を使用して栽培する
AeroFarmsは、4000万ドルを獲得しました。アラブ首長国連邦は砂漠気候でも食料の生産が可能となることなどから、垂直農法での国内での食料生産を後押ししており、首都アブダビに新しい垂直農法と研究開発センターを建設することを計画し、Aerofarms社を含む計4つの農業テック企業に1億ドルを投じています。


垂直農法の抱える課題

現状の垂直農法式を設備をもつ工場の建設費用はかなりの高額で、しかも従来の畑作やハウス栽培と比べてはるかに多くのエネルギー消費を必要とします。

最近の2020年の研究では、温室栽培、垂直農法などと、土壌ベースの農業を比較し、サプライチェーンを介してリーフレタスを米国の都市部へ供給される時の経済的・環境的影響の調査結果をまとめています。これによると、ニューヨーク市内の温室栽培での二酸化炭素排出量は、農地近郊からの露天栽培での農作物の3000マイルの輸送分とほぼ同じ量にのぼり、現行の垂直農法では二酸化炭素排出量はこれの約2倍になってしまうという試算が発表されています。

Plenty社の掲げる目標では工場が持続可能な再生可能エネルギーで100%稼働していることを確認することが優先事項になっており、先行していたサンフランシスコ南部の施設では、すでに再生可能エネルギーのプロバイダーとの間で電力購入契約を結んで、農場全体に100%の再生可能エネルギーによる電力を供給できています。他方で、コンプトン工場が完全なクリーンエネルギーで稼働することが理想ですが現時点ではまだ未定で、より正確な計画を立てるのはこれからのようです。

大型倉庫ほどの大きさの垂直農法工場は、近い将来、主要都市で一般的な光景になるかもしれませんが、この省エネの問題を解決しない限りにおいてはまだその規模のスケールアップするには時間がかかりそうです。ということで現時点で客観的に考えれば垂直農法が従来の畑作栽培を追い抜くとはことはまだないと言えます。

どちらかといえば、現行の垂直農法は食糧生産の面において、付加価値の高い野菜づくりを行うビジネスの立ち位置にあり、まだまだ食糧生産の主役をはれる技術としては未熟なため、もっとサプライチェーンを簡素化して、より利便性や立地条件を考えた生産を考慮しながら操業していくことが重要です。

垂直農法はまだ初期段階にありますが、農業技術の研究者の中には、50年後に想像もできないような社会変化を与えるまでに成長するかもしれないと予想する人たちもいます。さらに、少し遠い未来、人類が他の惑星に移住する時代に到達し、居住施設を構築する方法を構築する際には、超高層ビルスタイルの垂直農法で食物を生産しているかもしれません。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

フルスペクトルLED証明を用いた多段のベットによる植物育成の様子, 出図:
https://laist.com/2020/10/06/plenty_vertical_farm_compton_agriculture_technology_ag-tech_of_the_future_might_be_in_compton_warehouse_robots.php

参考サイト

The Farm Of The Future Might Be In Compton. Inside A Warehouse. And Run Partly By Robots(海外のサイト)

記事を書いた人

記事の担当:taconocat

ナンデモ系エンジニア

個人レベルで可能なハイテクx農業を日々模索しています。 時折スマート農業界隈の気になったニュースなどもゆるく情報発信する感じです。