【国内 x スマート農業的話題】自動収穫作業ロボットの開発事情定期便


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2021/03/15
2023/03/01
合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

近年では国際的に見ても独自開発した農業用自動収穫ロボットのニュースを定期的にみるようになりました。

以前、以下のリンクのように海外の自動収穫ロボットの開発最前線の話題を取り上げていました。

合同会社タコスキングダム|緑のタコの田園地帯
[海外xスマート農業の取組み] カリフラワーを摘み取るロボットの開発

デリケートで扱わないといけない野菜や果物をピックアップする海外の最新の収穫ロボットの取り組みを掘り下げます。

今回は国内の自動収穫用ロボットを独自に設計し、実用までを実現したベンチャー企業の旬なスマート農業的話題として取り上げていきます。


HarvestX〜イチゴの自動受粉・摘果ロボットの開発

HarvestX社は、学生起業家らで2020年に立ち上げられた、東大内に籍を置くとてもフレッシュな農業用ロボティクスのベンチャー企業です。

HarvestXは、収穫作業を行うロボットよりも更に機能を拡張させ、ミツバチによる授粉に頼ることのない、ロボットを利用した人工授粉を実現するための技術開発を目指しているようです。

主な農作物としては、室内栽培でも付加価値の高いイチゴを対象にしており、授粉から摘果までの作業を完全自動化できることで、農作業者の労働を大幅に軽減できることが期待されています。

動画出典: HarvestX Plant Pollinating & Harvesting Robots for Future,
https://youtu.be/K1TwMMex7As

現在でも葉物野菜を中心とした比較的規模の大きい植物工場が市場規模を順調に広げるニュースがしばしば取り沙汰されております。

一方で、果物のような花の咲いた時期に適切な授粉作業をする必要がある農作物は、現在においてもミツバチによる自然受粉に依存していることが多いという現状があります。

これがボトルネックになって完全クローズドな果物生産工場を実現する際の大きなハードルの一つになっていると言われています。

HarvestX社では、ミツバチの授粉の機能を研究し、ロボットに搭載したデプスカメラと独自の画像処理アルゴリズムを用いて花の構造を検知させて、授粉専用アタッチメントでのミツバチの代替となる最適な授粉を自律して行えるようになっています。

現在の課題としては、このロボットは自走台車方式することで、より広い農園内を自動で作業を行わせることを目指しているようです。

同社は2021年1月に
総額5000万円の資金調達を行ったことを発表し、これから実証実験を加速させ、事業をさらなるステージへと押し上げていくようです。

新型ロボット「XV3」開発とイチゴ自動栽培ソリューション「HarvestX」の提供開始

※この内容は2022/12/28に更新しました

HarvestX社は2022年12月に従来の実証機より作業効率を高めた新型ロボット「XV3」を開発を発表しています。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

出典:
https://harvestx.jp/solutions

「XV3」では、植物工場内を自動運転で走行する「Cart」と、データ収集用のセンサーや作業用ロボットアームを搭載した「Unit」の2つで構成されています。

植物工場の棚の段数に合わせて1-5段で自由に高さを選択することができるため、作業に応じて「Unit」を入れ替えることでさまざまな状況に対応することができます。

また将来的な機能アップデートにも対応しており、ハードウェアを大幅に変えることなく、ソフトウェアを更新することでロボットの機能バージョンアップが可能になっています。

また、この「XV3」の開発に合わせて発表されたのが、「HarvestX」のデータ収集・自動授粉・自動収穫機能を2023年中に順次リリースする計画です。

「HarvestX」は、植物工場内でイチゴの生産過程の「植物の管理」・「授粉」・「収穫」の自動化を行い、安定生産を実現するソリューションのことです。

これらの機能を統合した「HarvestX」のサービスが2023年夏よりリリース開始になり、2025年には栽培支援機能を追加して完全自動化の実現を目指すことことです。

参考サイト

果菜類の植物工場、完全自動栽培の実現を目指すHarvestXが総額5000万円の資金調達を実施

植物工場向けの自動授粉・収穫ロボットを開発するHarvestXが、イチゴ自動栽培ソリューション「HarvestX」を発表


AGRIST〜野菜の収穫ロボットの開発

AGRIST社は、人口が17,000人規模の宮崎県新富町にある自動収穫ロボットを使って、地域農家とハウス栽培を行っている地元密着型のベンチャー企業です。

こちらはピーマンの自動収穫の行えるロボットとして開発されているようです。

ピーマンに似たような栽培方法ならば、キュウリのような他の野菜にも技術転用が効くようです。

動画出典: 農業ロボットで課題解決するAGRIST,
https://youtu.be/K1TwMMex7As

ロボットによる農業用の収穫作業自動化と聞くと、やはり高価なイメージが付き纏います。

AGRIST社のロボットのコンセプトは、『安価でシンプル』を掲げており、一般の農家にも受け入れて貰いやすく、導入のハードルもそれ故他の自動収穫用ロボットよりも低いというのが強みのようです。

最先端のロボットでは常に新しい拡張機能を追加して他者との製品と差を付けるやり方ではなく、その真逆の思い切った機能のシンプル化をすること追求するというのが事業方針とのこと。

この方針にしたがって、農作業の自動化と不完全でも、人とロボットの共同作業でカバーすることができる、という観点から開発が進んでいます。

より安価に、ロボットの開発スピードに重きを置くことで、現場からの生きた意見を汲み上げて、課題としてすぐにロボットの機能にフィードバックできるのもAGRIST社の優れた点です。

独自OSの開発

同社の収穫ロボットにも採用されているように、ロボット開発者向けのオープンソース・ソフトでデファクトとなっているROS(Robot Operating System)で設計・構成されています。

ROSを採用するメリットとしては、一からソースコードをフルスクラッチすることなく、最小の開発工数でシンプルかつ実用性の高い製品が作ることが可能になります。

同社の技術面でのここ最近の動きとしては、
agris(アグリス)という独自のOSの研究・開発も進めており、将来的にはもっと機能拡張性の高いものになるように計画がなされているとのことです。

この独自のagrisOSを利用することで、ロボット側から得られたデータをAIで解析しながら、クラウド側へビッグデータとして蓄積・共有化することも出来るようになります。

さらにAI化が進むことにより、例えば病害虫の早期発見や最適な野菜の収穫時期の提案など、より先進的なIoTサービスを提供できるビジネスも見据えた事業展開を視野にしているようです。

ソフトとハードの両面からさらなるビジネスチャンスを国内だけでなく海外にも販路を拡げていくためには、やはり独自OSの開発は必要不可欠との営業判断のようです。

参考サイト

人口1万7000人の町からテクノロジーで世界展開を狙う、農業用収穫ロボット開発のAGRISTが資金調達


Inaho〜アスパラガス収穫ロボット

Inaho社は本社を神奈川県に置くアグリテック企業です。

また開発や試験用のブランチ拠点として佐賀県を中心した九州エリアにも事業を展開しているようです。

同社の提供しているサービスで用いられるロボットは、現状で主にアスパラガスの自動収穫が行えるようです。

動画出典: inaho Inc. ❘ autonomous asparagus harvesting robot ver3,
https://youtu.be/xSjU_SrSBp0

この自動野菜収穫ロボットでは、AIを活用してハウス施設内の収穫物を自動で巡回・判断し、収穫後はコンテナを渡してくれるまでの作業をこなします。

特に、地面から低い位置に生えてくる植物の収穫では、従来、農作業者は屈んだ姿勢のまま長時間の労働を強いられるため、腰や足に大きな負荷となっていました。

この低い位置でも収穫可能なロボットを利用することで、農作業者の厳しい労働を軽減してくれ、さらに夜間作業にも向くことから、収穫量もアップすることに貢献してくれます。

RaaSのビジネスモデル

Inaho社の事業の特色として、RaaS(Robot as a Service)というビジネスモデルを掲げられているようです。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

出図: RaaSサイクル概念図,
https://inaho.co/serviceより抜粋

RaaSモデルでは、まずロボット本体は販売せず、サービスの一部として提供しています。

ここでは自動収穫ロボットは無償レンタルという形でサービス契約に貸し出され、その後収穫量に応じたサービス利用料をInaho社側に支払うという料金体系です。

従来型のビジネスでは、ロボットもハードウェア製品として販売しているやり方と比べて、RaaS式では初期費用がほぼ掛からないため、契約者はサービスを即時導入しやすいということが挙げられます。

ファームウェアのアップデートやロボットの可動部分の修理メンテナンス費用も基本的に無料になるようです。

また、その時期の収穫量にもスケールした料金が請求されるため、仮に不作の年でも利用料定額で支払うわけでなく、収穫量に応じた料金が課金されるのも契約するユーザーには嬉しいサービスです。

この記事を執筆現在ではアスパラガスのみが収穫対象の野菜になっていますが、今後はキュウリ、トマト、ナス、ピーマン、いちごなども自動収穫できるようにさらなる研究を続けているようです。


ヤマハ・クボタ〜イチゴ収穫ロボットの米国スタートアップ企業へ出資

※2021/9/24日付に更新したパートです。

ここに来て、農業機械メーカー大手も未来のスマート農業分野に投資や技術支援という形で模索しようとする動きも活発化しています。

国内の農機メーカーの近年の動向として、海外の農機市場への販路拡大計画もあり、現地企業への出資や技術協力を積極的に行っています。

国内の農機具機械大手のクボタとヤマハ発動機は共同で、イチゴ収穫ロボットを開発する米国アドバンスド・ファーム・テクノロジーズ社へのラウンドBの追加出資を発表しています。

また出資だけでなく、露地・果樹農業分野での省人化や作業効率化の技術の強化連携も行っていくとのことです。

参考サイト:
ヤマハ発動機とクボタはイチゴ自動収穫ロボット開発の米Advanced Farm Technologies社に追加出資

この連携の取り組みは、近年ではヤマハ社、クボタ社の双方ともが、それぞれ独自に社外パートナーとの連携を積極的に行い、オープン・イノベーションを推進する事業を展開しているようです。

今回の米国スタートアップとの出資・提携も、両者の進める農業分野のグローバルなイノベーション活動として位置づけ、現在の社会・環境が抱える国際的な課題を解決する上で必要な新たな技術・事業・製品サービスの実現を目指しているとのことです。

露地栽培向けイチゴ収穫ロボット

国内の農業メーカーでの紹介ではありませんが、折角なのでアドバンスド・ファーム・テクノロジーズ社(以降はAFT社)の自社開発するイチゴ収穫ロボットもここで取り上げてみましょう。

AFT社は露地栽培用のイチゴ収穫ロボットの開発と画期的な生産技術を研究している米国スタートアップの一つです。

同社の主力ロボット『TXロボティック・ストロベリーハーベスター』が、露地イチゴのほ場をAIによる自動走行を行いながら、収穫適期にあるイチゴを画像センサで自動判別し、そのままロボットアームで摘み取ることができます。

動画出典: AFT社Twitterより引用,
https://twitter.com/WevolverApp/status/1400262627201323010

露地栽培であることで、特別な施設が要らないため、イチゴを安価に大量に収穫することができます。

さらに自動化技術により、収穫時期だけに農作業する人間を雇い入れることなく収穫作業を行うことができ、大幅な労働力にかかるコストを圧縮し、作業省力化を実現できるようです。

参考サイト

ヤマハ発動機とクボタはイチゴ自動収穫ロボット開発の米Advanced Farm Technologies社に追加出資

Advanced Farm Technologies Completes $25 Million Series B Funding Round | Advanced Farm Technologies社


GINZAFARM〜農薬散布ロボット「Dr.FARBOT」

※2023/3/1日付に更新したパートです。

日本のアグリテックロボットをリードするベンチャー企業・
「GINZAFARM」は2023年1月のプレイスリリースにおいて、施設園芸向けの農薬散布ロボット・「Dr.FARBOT(ドクターファーボット)」の量産モデルの販売を開始すると発表しました。

なお販売希望価格は220万円(税込)程度になる見通しです。

実際に圃場に適しているかも試したい場合には、新規導入しやすいサブスクリプション式のサービス提供もあわせて準備中ということです。

栽培のターゲットとなる野菜としては、垣根仕立ての施設園芸で育つ栽培作物を想定しており、

        トマト
きゅうり
なす
ピーマン
ししとう
        
などのスマート農業化に力を発揮することが期待されます。

「Dr.FARBOT」の特長は、搭載機構を換装することによって、ロボット一台で、農薬散布以外の複数の農作業タスクに対応できるマルチプラットフォームにあります。

量産機においては、検証の結果もっとも需要が見込まれる「農薬散布スプレーヤー」搭載タイプを標準として販売開始を予定しているようです。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

販売開始時点では、搭載機構は農薬散布ディスペンサーのみに絞るものの、今後のさらなる追加機能として、以下の項目を挙げています。

        + AI&カメラセンサー等による病害虫診断
+ 通信ネットワークを活用したリモートセンシング機構
+ データ取得〜解析まで一貫した最適防除診断システム
+ 薬剤を使用しない完全防除技術
        

簡素な操作機構

「Dr.FARBOT」は、完全自動運転ではなく、少し離れた位置からオペレーターが目視で端末操作するリモート操作タイプの農作業ロボットです。

複雑な操作方法を一切排し、誰でも簡単に覚えられる操作ができるように工夫がなされており、特別なトレーニングなどなくとも、すぐに慣れることが出来きるようです。

参考サイト

【NEWS】農薬散布ロボット「Dr.FARBOT」販売開始 病害虫診断、圃場データ管理など順次実装予定