※ 当ページには【広告/PR】を含む場合があります。
2020/12/11
2021/07/21
なんだか最近農業界隈でもドローンだとかIoTだとか横文字が増えて、なんだか変わらないことが増えて来ている農家さんがますます増加してそうな気配です。言葉の流行り廃れはあれど、農水省の定めるところのWAGRI(ワグリ)
という言葉を耳にしたことはないでしょうか。でも、果たしてこのWAGRIをどれだけの人が内容を把握しているのか分かりませんが、今回はできるだけ噛み砕いた内容でポイントを解説してみます。
はじめに
2020年の新政権発足後から、行政デジタル化や携帯電話料金の値下げなどなど、何かと話題になっている政策ある中で、スマート農業推進
も目玉政策の一つの柱になっています。少子高齢化に伴う就農人口の減少や、深刻な労働力不足、高度な農業技術力が若手に引き継がれないまま衰退してしまうなど、日本が抱える問題の深刻さが加速しつつあります。ちょうど5年に一回行われる農林業センサスの結果が公表され、5年前の2015年度調査の結果から比較すると農業従事者の数が約40万人(減少率-22.5%)の減少の136万人となったようです。また農業従事者の平均年齢もおよそ68歳となり、前回調査の平均66歳からみると高齢化の傾向も明確になりました。一方で、農業法人などの経営団体当たりの耕地面積は3haを超えて過去最高になっており、農業経営規模の集約化・拡大化が進んでいることも分かったようです。現在の日本の農業が抱えるさまざまな困難の解決の糸口とされているスマート農業へのシフト
ですが、農水省では2021年度予算の概算要求でスマート農業総合推進対策事業として約50億円を計上しており、スマート農業推進総合パッケージの推進などの取り組みを支援し、さらにこの動きを活発化していく方針のようです。
[話題 x 国内スマート農業] 農水省策定の「スマート農業推進総合パッケージ」のお話国内のスマート農業の推進政策・「スマート農業推進総合パッケージ」をポイントを掻い摘んでみます。
スマート農業推進総合パッケージの内容をより良く理解する上で、WAGRI(ワグリ)
というICT農業を支援するための新しいデータインフラを知ることが重要になってきます。以前の記事の一節の中では、WAGRI
という言葉をあまり説明もなくパッと出しましたが、今回はWAGRI
の中身がどのようなものかを簡単に取りまとめていきます。
農業データ連携基盤・WAGRI
スマート農業のキモは、人が汗水たらしてキツイ労働を行う従来の農業から、人間が働かなくとも楽に農作物を生産できるようにすることにあります。それは身体と経験を使う農業に対して、データと機械を使う農業にシフトすることで、これまで達成できなかった生産性の飛躍的向上や高品質な農産物の安定供給などを実現ことが可能になると考えられています。ただし、データをフル活用するとなると、データをどこでもいつでも使えるようにするための環境の整備することが不可欠になりますが、現在のITデータ環境の利用設備の設置は農業経営者の努力目標になっており、誰もが使えるようにはなっていません。そこで2019年4月から農研機構が主体なって運用を開始しているのが、農業データ連携基盤・WAGRIであり、農業ICTサービスを提供する⺠間企業と協力しながら次世代の農業用インフラとして構築出来るように着々と準備が進んでいます。出図: 農水省 公開資料, https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/nousui/20200131/200131nousui09.pdf
よりWAGRIのネットワークを通じて、気象や農地、地図情報などのさまざまなデータが即時活用できたり、インターネットを通じてシステム間の連携を図ることで⺠間のITサービスをシームレスに農業に導入したり、全く新たなビジネスの創出などが期待できたりと、農業のみならず他の産業分野からも期待されているようです。出図: 農水省 公開資料, https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/nousui/20200131/200131nousui09.pdf
より
WAGRIの活用した民間企業の事例
運用開始から2020年初めまでで現在、約40の⺠間企業等が利用がWAGRIのプロジェクトに参加しており、着実に利用者数は増加傾向にあります。現在、WAGRIを活用した新たなソリューションサービスは複数の企業が既に展開・提供中です。NECソリューションイノベータ
出図: NECソリューションイノベータ, https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/sl/einou/
JAや普及員などの営農指導者向けサービスのNEC 営農指導支援システムは、WAGRIのサーバーから蓄積した環境・気象・生育・出荷などの実績データを独自のAIによりでデータ分析し、生育や収穫量に影響するさまざまな条件や要因を予測モデルとして可視化することができます。例えば、産地特有の農地区画や農薬データを活用しながら、予測モデルに基づいた生育・収穫予測システムを独自に構築・最適化し、農薬散布等の作業計画を農業指導者がきめ細かく管理できるように支援してくれるサービスです。ビジョンテック
出図: ビジョンテックHP, http://www.vti.co.jp/
栽培管理システム・AgriLookは、特に稲作農業に特化したサービスで、日々の水田の生育状況や栽培環境をモニタリングし、高品質な米を効率的・安定的に生産するための支援をおこないます。インターネットを介して、WAGRI上の生育予測モデルと気象データを自社の衛星画像と連携させ、水稲生育状況マップ、気象メッシュ情報、栽培履歴データベースの閲覧などが可能です。衛星から得られた生育トレンド情報により生育の早さや葉色の変化など生育状況が分かる情報などから作業時期の最適化や、生育ステージに応じた施肥や収穫、病害虫対策等をきめ細かく計画管理できるようになります。テラスマイル
出図: テラスマイルHP, https://www.terasuma.jp/business
農業経営分析サービス・RightARMは、営農に必要なデータを多角的・効率的に分析してくれるサービスで、WAGRI上の農業データの取り扱いに特化したデータサイエンティストが手厚くコンサルティング支援してくれるので、評価・運用まで専門家に適切な経営診断を受けられるようになっています。データ分析の目的としては、気候や土質も異なるさまざまな圃場や栽培の状況、気象状況、市場状況などに合わせて、最適な生産計画・出荷予測を立て、かつ余分な投資コストを抑えること重点をおいて新しい角度から、営農をバックアップしてくれます。
スマート農業実証プロジェクトにおけるデータ連携の取組事例
Wagriのデータサービスを導入して農業の経営に取り入れている組織団体も増えて来ているようです。技術的・経営的な効果を実証するスマート農業実証プロジェクトが、令和元年を皮切りに、現在全国148地区(令和元年度69地区, 令和2年度55地区, 令和2年度補正24地区を採択)において実用に近い実証実験が行われています。この中の複数地区で、Wagriを活用した農業者の作業計画や経営状況を一元的に管理するシステム開発が進んでいるようです。一例としては、福井県の若狭の恵社では、異なるメーカーの農機を組み合せでも、農業者が営農データから一元管理・利用することができるように、収集したデータをウォーターセル社の営農管理システム・アグリノートに集約させている取り組みが行われてます。参考サイト:中山間地域におけるデータをフル活用した未来型大規模水田作モデルの実証|(株)若狭の恵
農業データの活用に向けた今後の課題と取り組み
農業経営者・従事者にとってWAGRIからのデータの活用の環境整備に向けて、民間企業間のデータ連携を強化していく必要がありますが、まだまだ課題があります。などなかなか各IT企業や農機具メーカーの思惑もあり、とんとん拍子には進んではいないのかもしれません。今後の取り組みとしては、国が調査している有用な指標となる統計データや、各スマート農業実証プロジェクトで得られた実験データを実装しながら、例えば病害虫診断システムや企業間のデータ連携の枠組み作りなどのWAGRIの機能強化を継続していくようです。
農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン
WAGRIを一般に普及させるにあたっては、農業者が安心してデータを提供できる環境を整備と、農業分野でのビックデータとAIの活用を促進する必要があります。現状の課題として、農業データの提供・利用に関する明確なルールが存在していないことや、データの流出がノウハウ・技術の流出につながるおそれ等の懸念が、農業者によるデータ利活用に際しての足かせとなっており、農業関係者側(データ提供者)と、サービスを展開する(機械メーカーやITベンダー)との間に結ばれる契約の基礎となるガイドラインの構築が進行中です。農業分野におけるデータ利活用の促進、それを通じた生産性や品質の向上を実現するため、平成30年12月に農業分野におけるデータ契約ガイドライン
を策定後、さらにAIに関する項目内容を追加・一本化し、令和2年3月に農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドラインというものが定められています。今後、スマート農機、農業ロボット、ドローン、IoT機器等を導入する際に、農林水産省の事業補助等を受ける場合は、令和3年度以降そのサービスの利用契約を農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン
に準拠させることが要件化するそうで、サービス提供者が、農業者から農業データを受領・保管・管理し、提供元の農業者が希望すれば、他の農業者へ蓄積されたデータを提供する内容の条項を、サービス契約に盛り込むことが求められます。これにより、農業分野の集合知としてのビッグデータの蓄積と、スマート農業を活用した農業生産性や品質の向上を実現することができると期待されています。
WAGRIの普及を阻む課題
いくら素晴らしいサービスを構築しても、市井に行き届くようなものにならなければ、まさに絵に書いた餅でその役目を終えてしまうものです。特にITサービス業に従事している者からすると、ネットワークアプリケーションのサービスのライフタイムは基本に短いものであり、「インフラ」と呼べるようになるほど多くの人間に受け入れられるソフトウェアなどはほんのひと握りのサービスに限られるのが世の常です。そもそもWAGRIの目指すところは、日本のスマート農業の標準規格
を狙ったものですが、ここに来て暗雲が立ち込みつつあるような気配があります。先日、ふとtwitterをみると、日本のアグリテック経営者のツイートでポツリと以下のようなものを目しました。出典: https://twitter.com/ishouichi/status/1377997339508416514
より引用非常に明快な理由で現在のWAGRIの問題点を指摘されていると個人的に思いますが、やはりソフトウェアのサービス開始〜普及期にあたっては、ユーザー気軽に利用できて、なおかつ新規ユーザーの数を増やせるようなものでなくては標準化も何もあったものではありません。冒頭でも述べたように、デジタル化を掲げる政府の重要政策に掲げられている「スマート農業推進」分野の一角ですので、それなりに国家予算が投じられているはずですが、蓋を開けてみたらAPIの年間ライセンス利用料が60万円もかかるとなると、既に新規ユーザー獲得はほぼ期待薄なのでは無いかと想像します。無償にせよとまではいいませんが、もう少し利用料の設定を考えなければ、スマート農業用のアプリケーションを開発販売するようなアグリテックベンチャーの新規参入も少なくなってしまうのではないでしょうか。まさに今がWAGRIの行く末を決定する重要なターニングポイントに来ている局面であるとヒシヒシと感じます。参考サイト
農業データの利活用促進に向けた取組状況について (PDF版) | 農水省