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2020/11/08
先の10月初めに農林水産省から公表された国内のスマート農業の推進を後押しする新たな政策・スマート農業推進総合パッケージ
。これは今後の国が主導するスマート農業推進対策の大きな柱になるものですが、そのポイントを掻い摘んで解説してみます。
はじめに
このほど農水省は、この数年で全国に展開していたスマート農業実証プロジェクト
の結果を様々に検討し、集められた課題を元にさらなる次のステップとなるスマート農業推進総合パッケージ
を打ち出しました。これは以下のような5つの施策項目をパッケージングしたものであり、向こう5年間(2025年度末まで)の政府主導による政策の方向性を示しています。最終的に掲げられている目標としては、2025年までに農業の担い手のほぼ全てがデータを活用した農業を実践
することにあるようですが、とりあえずこの5つの項目別に以降で一つ一つ概要を小出しに整理してみます。
スマート農業の実施/研究推進/普及
政策のひとつめは、ということのようです。現在行われてるスマート農業実証プロジェクト
は、2019年度から全国数十の地域を採択して、農作物別にどのようなスマート農業の手法によって一貫した管理・生産過程を、従来農法から置き換えられるかを検証するための模索が続いています。出図: 農水省プレスリリース・https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kihyo03/attach/pdf/201001-8.pdf
実証実験で得られるノウハウや新しいサービスの評価・分析を行い、民間の農機メーカーや農業法人・関係省庁の研究機関・大学などと提携して研究開発を進めていくようです。提携された生産農家の現場から得られた課題は、農業者と企業等が対話するマッチングミーティングなどを通じて、技術提案等でメーカー等へフィードバックされ、スマート農業技術の改良点や新技術の開拓にもスムーズに活用されることが期待されます。出図: 農水省プレスリリース・https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kihyo03/attach/pdf/201001-8.pdf
現在の試みの例を挙げると、自律的に人間の代わりに野菜・果樹など収穫してくれる機械の開発を推進したり、農業用ドローンによる農作物の遠隔監視・解析システムを研究したりと、ICT技術をフル活用した試みも行われているようです。他方で、このような新しい技術を一般に普及させるような取り組みにも力を入れ、農業管理サービス向けのアプリ等の活用を農業地区へ積極的に採用してもらえるように説明会を開催したり、農業従事者からの相談にも対応できるように普及指導センターなどの相談窓口も設けて、スマート農業をより活性化できるように発信していくようです。ただしスマート農業機器は現状でもかなり高価になり、農家の捻出する初期投資も膨大になると予想されるため、スマート農業に参入する農業者へのスマート農機等の導入支援助成金なども優先枠を設けながらサポート体制を整えたり、スマート農機・農機具のシェアリングサービスの展開も積極的に議論されています。
スマート農業支援サービスの創出
こちらは主にソフトウェアサービスの話が中心の政策になっています。ことが狙いになっています。出図: 農水省プレスリリース・https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kihyo03/attach/pdf/201001-8.pdf
スマート農業用プラットフォームとは、上の図のようにスマート農業を活用した画期的で新しい農業のエコシステムの形態です。農業に携わる個人や団体が、各自の専門的なドメインで業務を取り計らいながら、それぞれが特化した技術的なノウハウを共有しながら農業全体を強固なシステムに醸成していくこと目指しているようです。このエコシステム形成のためには、積極的な人と人とを繋ぐネットワークの構築が不可欠です。農水省が中心となり農業支援サービスに関する事例の調査を行いながら、サービスの内容・サービス料金・経営成立条件などをデータとして整理し、農家や農業法人などの現場で農業に従事する人たちと、スマート農業向けのICTサービスを提供する企業や組織とのマッチングを推進していくようです。近年では海外などは小さなスタートアップ企業が、スモールビジネス向けの農業向けITサービスを提供する事例が増えていく傾向にあり、実績もほとんどない企業信頼度の小さな企業がリリースするサービスでも問題なく採用する比較的寛容なビジネスの土壌がありますが、日本は企業信頼度がある程度ないと簡単には受け入れられないことも指摘されている点です。日本でも画期的な農業支援サービスを創出するスタートアップ企業などの新規参入を活性化していくことが、スマート農業用プラットフォームのネットワーク強化には欠かせないと考えられます。このような新規参入する中小企業者向けの融資制度の創設、新規事業立ち上げから当初ビジネスを確立するまでのサポート体制、スマート農業用機械の導入等を支援、農業支援サービス普及のための人材の育成、マッチングの促進など、様々な対策が検討されています。
実践環境の整備
これはスマート農業を行う上でのインフラの整備の話が中心の政策です。スマート農業におけるインフラとは主に、地形や農機搬入といった観点からの農地インフラ
とリアルタイム通信を可能とする情報通信インフラ
の2つを指します。この政策の狙いとしては、が挙げられています。農地インフラでは、自動走行に適した区画整理や傾斜地の多い中山間地域での勾配修正などスマート農業に適した農地整備づくりを目指しており、先行して策定されていた自動走行農機等に対応した農地整備の手引き
等の安全ガイドラインの改定など、スマート農業の推進の障害をスピーディーに取り除けるような見直しを図ます。農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドライン
については、2020年度中に圃場内での遠隔監視によるロボット農機の自動走行や小型ロボット農機にも対応できるような見直しが予定されています。またこの農地インフラの施工整備により得られる3次元データを活用して自動走行農機等への位置情報を利用できるシステムに拡張できるように、新しいガイドラインも策定していくことも視野にいれているとのことです。情報通信インフラ方面では、ICT技術を活用し水利施設の操作・監視の省力化、排水の適正な管理化等を図れるような整備の設置が検討されています。出図: 農水省プレスリリース・https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kihyo03/attach/pdf/201001-8.pdf
スマート農業各所で得られたデータを共有・連携しやすくし活用可能なデータを拡充させることで、民間企業による農業支援サービスの創出を促進する環境を整える必要もあります。2021年度から、農業者と企業との契約を農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン
に沿った内容とさせることで農業データベースへ自由にアクセスしやすくなり、たとえばスマート農機やICT機器の導入した農家が即時データを利用できるようになる環境が提供できるようになります。さらに今後は全国の農地区画情報の精度向上により、ICTベンダーや農機メーカーからのデータベース活用を促進させ、ドローン等の自動航行への活用や情報通信環境の見える化や、土壌分析への活用等の実証実験がスムーズに行われることが期待されます。出図: 農水省プレスリリース・https://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/kihyo03/attach/pdf/201001-8.pdf
さらにこの政策の大きな目玉として、スマート農業から得られたデータをクラウドサービスに蓄積し、共有データとして農業ICT企業や農業従事者向けに公開するパブリックな連携システムである農業ICTサービス向けオープンAPI・WAGRI
の整備が検討されています。これにより今までにないような新しい農業用サービスが創出されることが期待され、たとえばスマート農業へのドローンの積極活用を目指した時に、高速・大容量の画像・データ転送が必要とされているのですが、電波法等の管轄である総務省と足並みを揃えながら、ドローンなどの電波利用の手続の簡易化を検討も進められています。この辺はまだまだこれから色々とめざましく変わる技術の進展に対応させるための柔軟な法制度改正がこれから度々議論される必要があります。
学習機会の提供
上記の3つと比べるとやや付加的なテーマですが、スマート農家のなり手を育成するための政策のお話です。主にこれから農業大学校・農業高校で農業を学ぶ若い人たちのために、スマート農業を実習する機会を提供することが検討されています。外部からのスマート農業の専門家講師の派遣事業や、教育コンテンツ(動画、テキスト)の提供などがあります。また若い世代がスマート農業に興味を持ってもらえるような学生・生徒向けの参加イベントを催すことなどが挙げられています。IT技術の活用においては、デジタルに強い人材育成は必ず必要になってきますので、その場限りの政策ではなく、長い目で根気強く考えていく必要があります。
海外への展開
こちらはかなりあわよくば...いった感じの政策です。このブログでも話題として取り上げていますが、日本がリードしている分野もあるものの、他の先進国もかなり力を入れて研究・開発が行われているので、海外展開への壁はかなりのアドバンテージが生じない限りは難しいと思われます。一応簡単にまとめておきます。これに関しては、かつての原発や鉄道インフラなどの日本の独自技術を海外へ輸出して尽く失敗してしてきた経験をまた再び繰り返す...ことになりはしないのかと個人的に危惧してしまいます。情報漏えいや知財保護の観点が国家戦略レベルでこれから重要な事項になってきますので、おいそれと海外展開の構想はすべきでない時代になってきている国際情勢になりつつある現代で、単なる国同士の親善イベントや国際交流などの材料にせずに、きちんとした国家の成長戦略になるように歴史に学ぶことが重要だと考えます。
所感
これだけの内容をたったの5年(実質はあと4年)で全て実現しきるのはほぼ不可能かと思います。そもそも現状のほとんどの農業就業者の6割近くが65歳以上の高齢者が細々と営んでいる現状で、パソコンの操作もおぼつかない方もかなりいらっしゃいます。当初の目標に記述される文言の農業の担い手
という言葉が曖昧性をはらんでいるので、このようなIT弱者の農家の方も含む目標なのか、かなり限定的な意味合いなのか蓋を開けてみないと分からないようにも思われます。国からの予算をとにかく付けてもらわないといけないので、当初から理想の青写真は大きく掲げておかないといけなかった事情がありそうなのはお察しですが、細かく見ていくと実現出来そうなハードルの比較的低いものからクリアーしていく程度が最終的な落とし所では無いかと感じました。実に日本という国らしいスマート農業の推進政策ですが、農水省の意気込みは伝わってくる内容ではあります。このブログでも今後引き続きこの動向をレポートして行こうかと思っています。参考サイト
農水省・「スマート農業推進総合パッケージ」を策定