[IoT農業 x ニュース解説] NTTの次世代通信網(超広域衛星IoT/ローカル5G)の技術実証テーマにしたスマート農業最前線


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2020/06/21
2023/02/10

しばしば、NTTのリリースニュースで
「次世代超広域衛生IoTプラットフォーム」の話題が定期的にメディアなどを通じて発信されています。

以前のブログにて、
「LoRaによるIoT農業の最新動向」にもちょうど触れていましたが、これに関連した最新の広域通信技術が日本のIoT農業にどれほどのインパクトがあるのかを定期的に個人的な考察を交えながらアップデートして紹介しています。

NTT持株会社ニュースリリース(サイト公開) | 「低軌道衛星-地上間の20Gbps超通信と超広域なIoTデータ収集」実現に向けた技術実証案が革新的衛星技術実証テーマとして採択~世界初の低軌道衛星MIMO技術等の軌道上実証~

NTTデータ経営研究所ら、ローカル5Gを用いたスマート農業実証プロジェクト


記事の注目ポイント(要旨)

今回のニュースの肝を短くまとめます。

        + 実現すれば殊スマート農業分野においては、
    ゲームチェンジャーになりうるインパクトのある技術である

+ ユーザー側の運用コストや料金体系は不明。
    コスト面が既存のLPWA技術より割高な場合には、
    農業分野での利用では採算が取れないかもしれない
        
それでは以降の内容では、技術の内容を概要だけ深堀してお話します。


低軌道衛星による次世代通信技術とスマート農業の可能性

2020年6月時にNTTのリリースニュースで、JAXAの公募していた革新的衛星技術実証3号機のテーマ公募にこのほど「衛星MIMO技術等を活用した920MHz帯衛星IoTプラットフォームの軌道上実証」が採択されたとの発表されました。技術的に実証されれば世界初の試みであり、様々な分野に応用されることが期待されています。とはいえ、衛星本体の打ち上げが2022年〜なので実用化にはまだまだ先の技術ですが、各国で急速に研究が進んでいる次世代通信規格6Gとの絡みもあったり、中国やインドといった衛星の利用のためにバンバン打ち上げているような野心的な国との戦いも激化してきそうな技術領域ですので、国際競争の観点からはそうぼやぼやできないといった状況です。

とはいえ、衛星を打ち上げればどこでもIoT機器が使えるようになる夢の技術には検証・確立しなくてはいけないテーマがいくつもあるようで、中々容易ではないようです。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

出図: 本テーマにおける技術実証イメージ NTTニュースサイト
https://www.ntt.co.jp/news2020/2005/200529a.html

プレゼンを拝見すると、核となる要素技術は大きく2つに区分されるようで、

        1. 低軌道衛星MIMO技術(低軌道衛星-地上間通信の大容量化)
    + 通信路モデル化技術:
        衛星軌道を考慮して通信容量を解析可能とする
    + 時間周波数非同期MIMO干渉補償技術:
        受信タイミング・周波数誤差が異なる複数信号を干渉補償して分離

2. 衛星センシング技術(超広域衛星IoTプラットフォームの実現)
    + 衛星ブラインドビーム制御技術:
        データ収集のターゲットとなる地上IoT端末からの微弱な電波を抽出し、
        ターゲット外のIoT端末からの干渉を軽減
    + マルチプロトコル一括受信技術:
        920MHz帯域の安価なあらゆるIoT端末からの
        プロトコルフリーかつ複数の通信方式の同時受信
        
以上のような複合的な技術の組み合わせで、革新的なIoTネットワークを構築させるのが狙いのようのです。

低軌道衛星MIMOとはなにか?

MIMOはMultiple Input Multiple Outputの頭文字を当てたもので、無線通信を大容量化・高速化する技術の一つです。今回のように920MHz周波数帯に限定したものではなく、帯域も広く選べるようです。文字通り、複数の送信機・受信機のアンテナを、同一周波数で異なる情報を同時伝送することができるようになる技術らしく、通信容量の大幅な向上し、より広域に高速な相互通信を可能とします。

また、ここでの低軌道(Low Earth Orbit, LEO)とは地上700~1500kmを指すそうで、衛星軌道としては低い位置であるため、通信電波の短い伝搬時間と自由空間伝搬損失にできるメリットもあります。

今回の低軌道衛星へ実装される機器は地上から受信した波形の転送に特化したもので限定して設計されるらしく、信号の暗号化・複合化などの処理は、地上の中継局に置かれたエッジサーバーで演算処理するなどの機能分割方式を採用するみたいです。衛星開発を信号の転送のみに絞ることで、衛星自体のコンパクト化・低コスト化も期待できます。

超広域衛星IoTプラットフォームのこれから

低軌道衛星のカバレージの及ぶ範囲を超広域にして、これまでの地上通信設備が設置困難だった地域にも利用できるようにするためのセンシング環境の実現を目指すための技術群となるようです。

これが実証・確立すれば、本来は地上通信中継局のような設備の設置が困難だった通信空白地帯にも、映像のような大容量データを含む今まででは不可能であったレベルの高度な観測データのやりとりが可能なります。

ただし既存の衛星通信受信設備のコストは非常に高価です。

用途や利用者がかなり限定されていた経緯もあり、920MHz衛星IoTプラットフォームのサービスをいかに低コストで市井に提供できるしていくのかが、最も大きな争点となります。

以前のブログで、
静岡県のLoRaWANネットワークによる水田水位遠隔管理の考察しましたが、日本の稲作農業を例にとって、農業にIoTプラットフォームを導入するのに、田んぼ1反あたりの諸経費が年数万程度に抑えなければ、農家にはほぼ利益がでないという内容を記載しました。

つまりいくら素晴らしい革新的技術であったとしても、社会に浸透して受け入れなければプロジェクトとしての成果はほぼ皆無と言えます。

合同会社タコスキングダム|緑のタコの田園地帯
[話題 x IoT農業] 静岡県のLoRaWANネットワークによる水田水位遠隔管理

IIJと静岡県が主体となってIoTによる水田水位の管理システムを共同研究がこのほど足掛け3年程度の実証実験結果

次世代の低軌道衛星による広域通信を利用したスマート農業技術を確立しようとすると、まずはコストダウンが大きな課題と言えます。


ローカル5G通信を利用したスマート農法の可能性

最近、
「ローカル5G」という言葉を耳にしたことはないでしょうか。

一般的に「5G通信」というと”第5世代通信(パブリック5G)”ということは広く知られるようになりましたが、この「ローカル5G」とどう違うかはあまり知られていないようです。

“ローカル5G”とは?

通常の5G通信は、通信事業者が設備を敷設し、一般事業茶・コンシューマ向けのサービスを展開している点で、「パブリック」という意味合いを持たせた呼称になってます。

他方、
「ローカル5G」は、専業の通信事業者ではない「企業」・「自治体」が主体となって、限定したエリア(敷地や建物内)に専用利用できる5Gネットワーク通信網を構築することを言うようです。

基本的には、5G通信を独自に設置・構築・運用するには国が定める無線局免許を取得する必要があります。

逆に言うと、5Gネットワークビジネスは認可さえ取得することができれば、誰にでも扱える通信インフラだと捉えることもできます。

さて、2023年現在で、都市部を中心に段階的な整備が進んで割と使えるような印象も増してきた「パブリック5G」ではありますが、依然として郊外地区では利用できない地域が多くあります。

特に、人口の少ない農業主体の自治体にとっては、「ローカル5G」を積極的に自主導入することでパブリック5Gがないエリアでも5G通信を利用することが可能となるわけです。

現状で、5G通信に対応していない限られたエリア内で、広域無線のインターネットネットワークを構築する場合に採用されるのは
Wi-Fiが主だった手段です。

「ローカル5G」は、このWi-Fi以外の次世代の代替手段として大きな期待をされており、例えば企業単位で、工場の敷地内に専用ネットワークを整備し、作業機械の自動運転や遠隔制御を行うような「工場まるごとDX」に一役買うことができるものと目されいます。

もちろん、スマート農業分野でも期待の大きさは工業分野に匹敵するものがあります。

ただし、まだまだローカル5Gを用いたスマート農業は実証段階であり、実用化に向けて走り始めた始まったばかりです。

NTTデータ経営研究所を中心としたローカル5Gを用いたスマート農業実証プロジェクト

NTTデータ経営研究所を中心とした民間や大学の研究機関・高知県の農業団体が協力して2023年1月からローカル5Gを用いたスマート農業の実証事業を開始することを明らかにしました。

先程も述べたように、5Gの通信技術を独自に扱えるようになるには国からの認可と高い専門知識が必要になるため、実用に至るにはこれからクリアしなければならないハードルもかなり多いと予想されます。

ただし、ローカル5Gの通信網を一旦確立してしまえば、やっていることはWi-Fiでやっていることと大差は無いでしょう。

検証では、遠隔地から農薬散布・除草作業用ロボットをローカル5G通信によるリアルタイム制御を行うというものです。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

出図:
https://nousongenki.org/news/597/より抜粋

現状は高知産のユズの生産性向上に注力していますが、ローカル5Gを利用したスマート農業モデルの確立を最優先に目指すものとして、今後採算性の採れるビジネスモデルを拡大していく予定のようです。

ローカル5GがWi-Fiの代替手段として将来活躍できるかは期待したいと祈るのみです。


まとめ

低高度衛星を用いた超広域・大容量高速通信の実用化の道のりはまだまだ始まったばかりですので、IoT農業に関して言えば、まだまだLPWAベースのネットワークシステムを活用することになります。

上記に述べたように、従来のLPWAからLEO-MIMOへの移行作業はプロトコルフリーなこともあり、シームレスに行えるのも魅力ですので、スマート農業従事者は今から念頭に置いて遠隔監視管理システムを構築していくと良いと思います。

また並行して、ローカル5Gについても今後農業分野での伸びしろがあり、応用に期待されているため、民間や国の農業関連機関が足並みをそろえて技術の発展に努めていることも、技術的な選択肢が広がるという意味で重要になります。

参考サイト

「低軌道衛星-地上間の20Gbps超通信と超広域なIoTデータ収集」実現に向けた技術実証案が革新的衛星技術実証テーマとして採択 | NTT持株会社ニュースリリース

衛星1基で日本全域をIoT通信エリアに、NTTとJAXAが常識覆す「6G」視野 | 日経XTECH