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2020/06/13
(※2020/11/14に記事を更新しました。)IIJ(インターネットイニシアティブ)と静岡県が主体となってIoTによる水田水位の管理システムを共同研究する「水田水管理ICT活用コンソーシアム」が、このほど足掛け3年程度の実証実験結果を公表されていた | IoTを活用したスマート農業実証事業について成果報告ので、弊社としても学ぶところも多く、勝手ながらポイントを掻い摘んで技術レビューにさせていただきます。
TL;DR
今回のお話の要点をまとめると、ということになります。以下で個人的に興味のあるところを中心に考察しております。
コストが問題
成果報告レポートのページの概要にも述べられているように、少子高齢化が進むほど農業従事者が減少して日本の農業規模が縮小していく訳ではなく、大規模農業従事者が事業の拡大のために空いた農地を引き受け、むしろ農地面積は近年急激に増加しているようです。大規模農家や農業法人が増加傾向にあるとはいえ、まだまだ日本の農地の約70%弱は3.0ヘクタール未満の零細農家であり、スマート農業事業を展開しようとするメーカーやソリューション会社にとっても、スマート農業インフラを導入してくれそうな大規模農家もまだまだ少なく、参入しても見返りの少ない分野だという認識は根強くあります。ざっと田んぼ1反(約10a)の売上高は14~16万円程度と言われており、農家の利益としては1反あたり大体10万程度ほどだとして、このため大規模農家でなければ設備投資にそれなりに予算のかかるIoT機器の導入には資金的に、零細農家の個別の導入は難しい、という大きな障壁があります。これまで稲作農業でのスマート農業の普及に関しては、田んぼ一反あたりの年間の諸経費が数万円程度に抑えなければビジネスとして成立しなかったのですが、今回の成果で水田水位管理システムを導入しても農家側への利益が出せることが実証されたのは画期的だろうと思います。
ICT水管理システム
まず課題として、従来の農業手法での田んぼを一枚一枚移動しながら、水の管理・調整を人力で行っていることが大きな負担であり、これらの作業を全て遠隔操作させることで労働負担を軽減させるのが実験の目的だったようです。この実験は2017年~2019年度に静岡県下で、地元の複数の農家の所有する延べ75haほどの水田に、水位センサー300基と自動給水バルブ100基を設置して実施された実地試験結果をまとめられたものです。設置された水位センサーと自動給水バルブの運用管理には、IIJ主体の研究グループが開発したICT水位管理システムが採用され、広域をカバーできる無線基地局を通じ、インターネット上にAPIへデータを定時送信する機能をもっており、農業従事者がアプリから水位を確認し、自動給水バルブによって水位を遠隔操作できるようになっています。引用先:資料https://www.iij.ad.jp/news/pressrelease/2020/pdf/shizuoka.pdf
より抜粋ちなみにIIJといえばMVNO事業のイメージがしますが、インターネット接続サービスの強みを活かしてICT農業事業分野のイノベーションに取り組んでいるようです。すでに同社では、水位センサーと通信機器をセットにしたICT水田管理システムパッケージ「水管理キット S」を商品化しているようです。スマート農業導入パッケージ 水管理パックS
LPWA
LPWAはLow-Power Wide-Areaの訳語で、低消費電力、広域無線アクセスを行う通信技術の総称です。直進で10m以内しか通信できないBluetoothのような短距離無線をより長距離までカバーする通信規格であり、現在代表的なものに、Sigfox
、LoRa
、LTE-M
など多数あります。引用元: 総務省「平成29年第4次産業革命における産業構造分析とIoT・AI等の進展に係る現状及び課題に関する調査研究」https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc133220.html
の示す通り、100m以上から数十キロの広域をカバーできるため、IoTネットワークシステム構築に適した通信規格になっています。項目 | LoRaWAN | Sigfox | LTE-M |
---|
周波数帯域 | ~920MHz | ~920MHz | LTE |
電波免許 | 不要 | 不要 | 免許必要 |
伝送速度 | ~250kbps | ~100bps | ~1Mbps |
伝送距離 | 10km程度 | ~50km | ~20km |
規格仕様 | 公開 | 非公開・ライセンス制 | 公開 |
流行りの3つの規格をざっとまとめると上の表のようになりますが、規格によって長所短所があり、目的によってどの規格を採用するかは開発側で判断が分かれるところです。また、通信電波を遮るような障害物の影響にも、左右されるため地理的に適しているかも実地検証しておく必要もあります。今回の水田水位管理システムではLoRaWANを採用しており、水位センサー設置数や給水開閉バルブの設置数が多くSIMを用意する必要のあるLTE方式では用途として適さないのと、Sigfoxは日本ではあまり流行っていない経緯もあり、LoRaWANでIoTネットワークを構築するのは自然な流れだったようです。昨今では、Soracom Airを代表とするIoT通信向けのクラウドサービスを利用することで、低価格・短期間でのIoTシステム開発が可能となって来ているので、今後もLWPAを活用したスマート農業の展開が楽しみなところです。実証実験の締め括りに今後の展望・展開が記されていましたが、などのさらなる課題に取り組むとのことでした。思うに、稲作農業はその特徴上、田んぼの水源を共にする灌漑地域一体となっているため、その地域全体としてスマート農業化を推進しなければ、大きなイノベーションは生まれ得ないと思います。引用先:資料https://www.iij.ad.jp/news/pressrelease/2020/pdf/shizuoka.pdf
より抜粋ここら辺は、農業を主体としてサポートしている地方自治体が音頭をとって、地域横断型の農業政策を活性化していただきたいところではあります。今回の静岡県の取り組みはその意味では、良いモデルケースになると実感しました。
スマート水田サービス・paditch (2020/11/14更新)
水田水管理ICT活用コンソーシアムの結果報告から約5ヶ月が経ちまして、今回の水位管理システムの実証試験に遠隔操作できる水門を開発していた富山県のアグリテック企業・笑農和から水管理工程を遠隔操作・自動制御化した製品でスマートフォンのボタン一つで水門や給水栓の開閉を一括で行うことができるスマート水位管理サービス・paditch(パディッチ)の将来性が高く評価され、シリーズAラウンドにおいて1億円の資金調達増資を発表されました。同社からのプレイスリリースはこちらから参照できます。出図: 笑農和HPより抜粋, https://paditch.com/?utm_source=enowaweb&utm_medium=web&utm_campaign=home
paditchは、今回の実証試験から得られたデータを元に市販化された一般水稲農家向けの水位管理用のクラウドサービスを指しています。今回の資金調達で、既に実用化されているリモート水田水門のpaditch gate02+
のデータを活用したサービスの強化や、遠隔操作型の排水バルブpaditch drain 01
の開発を進めていくようです。動画出典: paditch 紹介動画, https://youtu.be/vLe8-pJ5yxQ
同社の今後の開発動向にも、スマート農業を取り入れたい農業従事者だけでなく投資関連の企業や機関からもさらに注目が集まっていくのは間違いありません。参考記事: 水田向けスマート農業サービス「paditch」開発・運営を手がける笑農和が1億円を調達
参照サイト
ICTを活用した日本最大級の水田水管理システムの実証研究静岡県 農地局 PDF資料「もうからないのが一番の問題だ」IIJが語る“農業IoT”の課題 | ITmedia静岡県の水田、IoTで水位を遠隔調整 作業時間を8割削減 農家は「仕事が楽になった」と実感 | ITmedia