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2020/11/27
2022/07/29
スマート農業を格安で始めるためには、いささかITの知識とソフトウェア技術がどうしても最低限度は必要になってきます。これからスマート農業を目指している方にとってしてみれば、コンピュータの勉強してから就農する方が良いのか、就農してから必要最低限のITの知識を身につけていったほうが良いのか、悩ましいのも事実です。今回は、施設内農業をスマート化するために、汎用のラズパイを使ったIoT機器の導入の敷居をグッと引き下げてくれる、DIY(Do-it-yourself)で設置する製品をブログ内容として取り上げてみようと思います。
はじめに
スマート農業とは、まさに設備投資との闘いです。現在、一つ一つの専用通信機器の値段がわりかし高いので、農場の規模が大きければ大きいほど設備費用と維持費もかなりのものになってしまっています。これが日本の中小規模の生産農家や農業生産組織が全面的にスマート農業の移行に踏み切れない大きな足かせになっているといっても過言ではないと思います。またスマート農機の需要が生まれなければ、専用の農業用設備メーカーからしても機械にイーサネット通信用のインターフェースを実装したICT対応型の製品をリリースしてもほとんど売れないので、まだまだ従来の機械の生産を積極的に続けなければやっていけないような、需要と供給の2つの側面から大規模農家以外には普及しにくいのが現状のようです。ただし、高価な設備投資を行わなくても、やり方さえ勉強すると、低コストでスマート農業用のシステムが自前で構築できるような時代です。所謂、気軽なDIYで、中小規模のハウス栽培でもICTを活用して収益性を改善させるチャンスがあるのです。今回はそんなDIYキットで、誰でも簡単に環境制御システムを導入できるように取り組んでいる㈱ワビットの製品を著者の独断目線で解析してみます。
UECSプラットホーム 〜 UECS-PiとArsprout
DIYキットの説明をする前に、前置きとして『UECS』について簡単に整理しておきます。UECSは"ウエックス"と読むらしいですが、ユビキタス環境制御システム(Ubiquitous Environment Control System)を略語だそうです。参考:UECSの概要説明動画 | facebookその通信規格の成り立ちは20年程度も遡るようで、こちらの基本規約にUECSの規格を確認することができます。ただ通信分野の技術の激しい移り変わりの中で、ひと昔も前に規定された通信規格ですので、今見ると色々な内容で陳腐しているように感じてしまいます。EUCSをざっくりいうと、Ethernet通信をベースにノード(機器)間の通信をXML形式で送受信するようです。当時としてはIoTなどという概念も無かった時代ですので、このEUCSの考え方そのものはスマート制御農業の時代の先を行く優れたアイデアだったのですが、現役のWebエンジニアの立場から言わせていただくと、EUCSはかなり時代遅れの規格になってしまっています。MQTTやWebsocketなどの急速に伸びたIoT通信向けの規格が簡単に利用できるようになってしまったため、施設内栽培の環境制御システムを構築する際に、(ICT方面に明るい)ユーザーは必ずしもEUCSをこれから追従して、装置に採用しなくても良い気はします。ワビット社の製品はもともと先行してUECSを採用していたようすですが、そのような時代背景もあり、次節で説明するArsproutへと製品のバトンが受け渡されています。UECS-Pi
まずはワビット社のDIYキットを利用する上で、UECS-Pi(ウエックスパイ)という製品の存在が欠かせないので先にこちらから解説していきます。ワビット社のDIYキットの第一弾として、汎用小型コンピュータ・RaspberryPiベースで施設内農業の計測・制御に特化したハードウェア開発を行っており、そのラズパイ上でUECS通信方式にて動作するDIY環境制御ソフトウェアがUECS-Piと呼ばれるものです。現在のソフトウェアはこちらのサイトに公開されています。なお、UECS-Piには機能に応じた有償無償などの区別があり、以下の3つのモデルがあります。最初にDIYキットを試したい場合にはUECS-Pi Basic
を利用した、Arsprout DIYキット2 内気象ノード
を利用することを目指すと良いと思います。このキットに関しては後述します。まずはUECS-Pi Basic
をインストールするラズパイを一台入手する必要があります。ラズパイは現在のオンラインショップからでも安定的に手に入る状況です。もちろんワビット社からのショップで購入することも可能で、まどろっこしいことはせずにすぐにもスマート農業に触れてみたい方はこちらから購入されることが推奨されます。ちなみに、このDIYキットは以下のような構成になっています。もし自前ではラズパイで周辺機器を入手することや、自作することに困難な場合には、このDIYキットがスターターパッケージの意味合いもあるので、単品部品のバラ買いをせずに最初から購入検討したほうが良いと思います。また、バラ買いされた方は、適当なサラのSDカードに最新ファームウェアをインストールするところから始めないといけません。ファームウェアの導入手順書である内気象ノード簡易マニュアルには、UECS-Pi Basic
をインストールする手順が細かく説明されています。詳細が知りたい方はこのドキュメントの中身を確認してみてください。それでは、UECS-Pi
の導入イメージも掴んでもらったところで、次に現行のハードウェア製品群であるArsproutの説明に移ります。Arsprout
同社のUECS技術・ノウハウの蓄積をベース生まれた独自製品規格・Arsproutは、UECSをアップグレードさせた次世代の製品群として位置づけられているようです。この記事では、Arsproutをラスパイで組み立てられるDIYキット製品概要を簡単に解説します。Arsprout Pi
Arsprout Piはラズパイ上で動作する汎用の環境計測制御ソフトウェア製品です。その日からでもスマート農業が簡単に初められるように、複合制御機能やモダンなUI(ユーザーインターフェース)を標準搭載している仕様です。出図: Arsprout Piの製品概要, https://www.arsprout.net/arsprout/arsprout-pi/
より.なお、前節でも触れましたが、ソフトウェア無償版(内気象ノード
)でサポートされているのは標準の計測までで、制御機能を利用したい場合には有償版(制御ノード
)をワビット社から直接購入することでライセンスが付属されてくるそうです。Arsprout DIYキット2
現在のArsprout製品群の中のDIY制御ノードキットは、基本機能を搭載したArsprout DIYキット2 内気象ノードと、中小規模の栽培施設から植物工場などでも使えるフルスペックなArsprout DIYキット2 制御ノードの2タイプがあるようです。今回はラズパイでのスマート農業を誰でもDIYできるようにデザインされたDIYキット2 内気象ノード
を例に取り上げていきます。出図: DIYキット2 内気象ノードの外観, https://www.arsprout.net/arsprout/diy-kit-body/arsprout-diy-isnode-kit/
より.このDIYキット2 内気象ノード
の構成に関しては、まず防水防湿仕様の筐体ボックスに、電源とラズパイ本体が設置されています。ラスパイには、専用の拡張ボードがマウントされており、例えば上の写真では、湿度センサー・CO2センサーと拡張ボード上のADC(アナログ-デジタルコンバータ)と接続されて、サンプリングされた測定値がラスパイに取り込まれる仕組みになっています。家庭用のLANネットワークやWi-Fiへ、このラズパイを接続するとインターネット越しにどこに居ながらでも、現在の施設内の測定データを確認することが可能です。出図: Apsproutの環境制御システムの運用例, https://www.arsprout.net/arsprout/diy-kit-body/arsprout-diy-isnode-kit/
より.より詳しい情報については、DIYキット2 内気象ノード | 公式ドキュメントの資料内で色々と細かくとても丁寧な内容で記載されています。Arsproutクラウド
より施設のスケールが大規模になってくると、家庭用Wi-FiやLANネットワークルーターなどではカバーできなくなってきますので、Arsproutクラウドというサービスを使って、3G無線通信で広い面積をカバーすることも可能です。出図: Apsproutクラウドによる環境制御システムの概要, https://www.arsprout.net/arsprout/arsprout-cloud/
より.その場合には、利用するノード数とデータ使用料で組み合わせで月額料金が変わってきますが、最低1,700円からと、リーズナブルな価格で使い始めることが可能のようです。また、サービスの月額使用量とは別に、ノード単体接続用のクラウドスタータセットか、ノードを複数台繋げるモバイルルータセットを別途購入しておく必要があります。さらに、b-mobileなどのプリペイドSIMカードも別途契約しておく必要もあるようです。参考サイト
株式会社ワビット スマートアグリ事業特設サイトUECSプラットホームでスマート施設園芸の実現ハードウェア (1)RaspberryPiによる低コストUECS機器の製作と利用
SmartGarden3
最近ではkickstarterやcampfireなどのクラウドファンデングサイトでも「卓上水耕栽培DIYキット」のブロジェクトが定期的に紹介されています。中にはRaspberryPiベースのDIYキットも少なくありません。現時点(2022年2月)で出資期間は終了していますが、kickstarterのほうでクラウドファンデングを募っていたSmartGarden3は最終的に9,281米ドル(目標達成金額5,000米ドル)に達しており、手軽に自宅で水耕栽培を始めたい層に注目を集めていました。この「SmartGarden3」は本格的にスマート水耕栽培を自宅で始めたいけれども何からどう始めたら迷っている方に最適なミニマルなRaspberryPiベースの組み立てキットをパッケージ化したものです。出資者特典として以下のオプションをパッケージしたDIYキットが購入できるようになっています。これを自分で組み立てたり、3Dプリンターで筐体を出力したりとすることで以下のような「卓上水耕栽培システム」を構築できます。上記で解説したUECS-Piは小中規模の施設栽培の自動化を念頭に構築するDIYキットでしたが、こちらは更に小規模な範囲で水耕栽培を行うことに特化した商品になってます。たとえ規模が小さいとは言っても、水耕栽培に必要な機能をコンパクトに内包していますので、本格的にスマート施設栽培を始める前のノウハウの習得にも役立つことでしょう。そういう意味では、施設型スマート農業体験セットのように使えるので、これからの次世代の農業を担うデジタル農業従事者のための楽しく学べる教材としても需要が出てきそうです。なお卓上水耕栽培キットというジャンルは、コロナ禍の巣籠り需要の中で、ご家庭内でも植物鑑賞などを愉しめるように小型で扱いやすい家電のようなタイプの商品も市販されています。これを機に、ご家庭やオフィスにスマートプリンターを置いて、プチ植物鑑賞でささやなな癒やしを求められてはいかがかと思います。参考サイト
SmartGarden3 Kickstarter Live!Tutorial: Adding LED Grow Lights to SmartGarden3
まとめ
今回は、比較的簡単な自作で、リースナブルなスマート農業環境が構築できるワビット社のArsprout
製品を例に、導入のための概要的な内容で取り上げみました。Arsprout
を利用するメリットとしては、サポートしている周辺機器の取扱の幅が広く、いたれりつくせりな技術的なサービスもついているので、スマート農業の始めるためのハードルが下がって、なおかつわからないことが相談できる安心感があります。今後も、同社の取り組みで気になる話題があればその都度このブログ記事もアップデートしていこうと思います。