[海外 x スマート農業] Arable社が農業用IoT機器で2000万ドルを調達


※ 当ページには【広告/PR】を含む場合があります。
2020/10/31

注目の農業用IoT機器ということで、
Arable社Markと呼ばれる複合型のほ場環境モニター装置が販売されているようです。今回はこのIoT装置をすこし深堀してみます。


米・Arable社

農業ビジネス向けのIoT機器を開発しているカリフォルニア州サンフランシスコのスタートアップ・Arable社は直近の資金調達ラウンドで2000万ドルに達したと発表しました。ここ数年の収益で自社のサービスの成長をさらに加速させ、次なる主力製品の開発を着々と進めているようです。

同社は農業ビジネス用のIoTハードウェアからクラウド管理システムまでをオールインワンパッケージして農家を支援する統合的なソリューションを提供している企業です。

中央アメリカにおける2018年時点の調査研究結果において、調査対象の小規模農家のほぼすべてで気候変動によるなんらかの影響を受けており、そのほとんどが気温上昇・例年以上の降雨量などといった異常気象を経験し、これから先の農業生産量に深刻なダメージを及ぼす可能性を示唆しています。また他方で、2050年までの世界人口が97億人に達した場合、2010-2050年の40年間に、世界の農業生産が69%増加するとの予測があり、農業生産の技術革新を急がなければならない時に差し掛かっている状況です。

2014年に設立されたArable社はこの課題にいち早く取り組み、農業生産者が様々な気象変動のリスクに対処できるよう、農場のデータを測定・解析・予測を迅速に提供する装置の開発に着手してきたようです。現在ではLTE-M/2G/3Gといったリモート接続を介して、気候・土壌などのデータを統合的に視覚化できる水量管理ツールである
Markを主力製品として展開しています。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

出図:
https://www.arable.com/2020/10/30/arable-raises-20m-to-digitize-agriculture-and-optimize-the-food-system-2/

太陽光発電で持続的に駆動するこのMarkは、監視エリア内の降水量・作物への水分不足量・土壌水分量・温度変化量や他社のセンサーから収集されたデータを、ブラウザを介した専用ダッシュボードやスマホアプリで一括管理できる仕組みになっています。

また、Markはまさにカバーしたいほ場に立てるだけの手軽さで、農場の監視管理システムを導入できるのが大きなメリットになっています。

現在競合になっているサービスとして、Microsoft社も同じようなプラットフォームサービスである
Azure FarmBeatsが挙げられますが、こちらユーザーがカスタマイズする自由度が高く、Markのように全ての機能がオールインワンになった専用のセンサーとプラットフォームが統合されているサービスにはなっていないので、センサー機器などは汎用市販品を別に用意してから自前でソリューションを構築する必要があります。

他にも農業ビジネス用のAIを利用した予測・分析プラットフォームとして、
IBM Watson Decision Platform for Agricultureがあります。このサービスは、実証実験に基づいたデータを通して得られた洞察をAIコンピューティングとIoT機器をクラウド越しに操作するソリューションパッケージですが、これは大規模な農業経営事業者向けのサービスになっているので、小さな農家には手が出しにくいソリューションパッケージ商品です。

また新進気鋭のスタートアップも存在しており、代表的な
CropX社の展開するサービスは、農場周辺のセンサーを使用して地形・土壌の構造・水分量に関するデータを収集し、農作物が必要としている最適な水量を推定してくれるアプリを提供しています。こちらはあくまでもソフトウェアサービスに特化した製品であり、やはり汎用のIoTセンサー機器は別に構築する必要がありそれなりの知識も必要とされます。

以上のことからArable社の強みとしては、ハードとソフトを上手く融合させたオールインワンのパッケージを、比較的小規模の農業事業者にも導入できるようになっていることにあります。


Markの仕様

Arable社の提供するサービスの中核になっているオールインワンセンサー端末のMarkは、内部に搭載された温度センサーと音響センサーから、気温・降雨量を測定し、農作物の種類に応じた情報から推奨される水量管理の計画が立案される仕組みになっています。ちなみに音響センサーでは、雨滴の落下によって発生する音量から降水量へ変換しています。

動画出典: Arable Labs - Decision Agriculture,
https://youtu.be/HIg1A857Bt8

Markは1時間ごとに表面湿度、クロロフィル指数、乾湿温度の測定値、日照レベルのレポートを送信しており、植物の光合成時間を算出するのに役立ちます。

Arable社では、Markの開発段階から膨大な実証実験データによって、AIの訓練を実施・検証することに多額の投資を行っており、Markから送られてくる様々な農場・作物のデータをこのAIによって解析することにより30時間~10日先までの最適な育成条件を予測できるシステムになってるとのことです。また同社は、独自のAIによる画像処理を駆使して、衛星画像と圃場内センサーとのデータを融合し、現時点でのリアルタイムな状況に限りなく近い画像を作成することで、データの連続性を高めているようです。

さらに今後ともMarkの音響センサーなどから得られたデータを使用してエッジディープラーニングのサービスにも取り組み、さまざまな運用予測と地域の天気情報を活用しながら、粒度の細かい天気予報のようなサービスも展開しようとしているそうです。

直近の話題として、後継機種である
Mark2を39か国の数万エーカーの土地に、37の作物で実証試験を展開中とのことです。協力企業や団体には、世界的なワインメーカーや有名コーヒーショップ向けのコーヒー生産農家やアメリカ政府機関なども含まれているそうです。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

出図:
https://www.arable.com/solutions_irrigation/


存在感を強めるアグリビジネス

Arable社は2020年の第3四半期までに300%を超える売上成長を記録し、さらに今年は主にテレコムClaroとのパートナーシップを通じてブラジルでの事業拡大に注力した飛躍の年になったようです。またスタンフォード大学が監督する30以上の研究サイトに展開し、アメリカの農業学界に存在感を倍増させ、UCデービス校・ネブラスカ大学・カーネギーメロン大学との提携をすでに漕ぎ着けているようです。

コロナウイルスによる世界的なパンデミックによって、世界の農業のサプライチェーンに衝撃を与え、従来の人の手による労働力の不確実性を引き起こしました。とはいえ、当然のこととして消費者は良質な食物の需要は増しており、その生産者はそれに応える製品を生産し続けていかなければなりません。皮肉にも今回のパンデミックは、これから先の農業ビジネス企業が成功するためには、農場から得られる信頼性や精度が高い有用な定量的データの活用方法がどれほど重要あるかを明確にしたと言えます。

IoT機器やAIやクラウドを使ったサービスによってますます厳しくなる気候変動に適応する農業を支援することは、これからの農業ビジネスの主要なスタイルとなっていくと考えられ、AI技術とデータサイエンスを使った農業の発展を世界的な規模で取り組んでいかねばならないと言えます。

参考のリンク

Arable Raises $20M to Digitize Agriculture and Optimize the Food System(海外のサイト)

Arable raises $20 million to make connected devices for farmers(海外のサイト)

記事を書いた人

記事の担当:taconocat

ナンデモ系エンジニア

個人レベルで可能なハイテクx農業を日々模索しています。 時折スマート農業界隈の気になったニュースなどもゆるく情報発信する感じです。