[スマート農業x稲刈り] ロボットトラクターとコンバインの同時操作による稲刈り作業の実証


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2020/10/12

今年も稲刈りの季節が到来し、のどかな田舎のコメ農家の方もこの時期は大忙しのときを迎えてることかと思います。

地方の農業を主な生業とする地域は過疎化・少子高齢化とも相まって、かつては自前で行っていた稲刈り作業もコンバインなどの専用の機械を持った代行業者や個人事業主にやってもらうようなやり方にシフトしつつあるように思います。

日本における稲作農業はどの農作物よりも先行して事業の集約化が進んでいるため、市井のスマート農業化の浸透具合を測るための良いバロメーターになっているようです。

今回は民間での稲刈り作業のリモートコントロール技術の実践のニュースを取り上げて、記事としてアーカイブしてみようと思います。


自動運転型農機

この数年で大手農機メーカーこぞってロボット農機を発表しています。では、日本国内の最近のロボット農機が実際にどんなものか少し整理しておきましょう。

ロボットトラクター

井関農機のロボットトラクタ TJV655Rは自動運転レベル2程度の自動運転が可能なロボットトラクターとのことです。

なので完全なリモート操作まではいかず、何かあったときに対応できるように有人の監視が必要な段階ですが技術としては着実に進歩してきているようです。

動画出典: 【農業用ICT】 ISEKI ロボットトラクタ T.Japan V TJV655R,
https://www.youtube.com/embed/Npc-fIKs3vc

このロボットトラクターはGNSS(グローバル衛星測位システム)を利用した自動操舵を可能としており、オペレータがトラクターに搭乗せずとも遠隔操作によって安全に無人作業を行えるようになっています。

日本国内の農機の自動運転化を行う際には、農林水産省の定める
ロボット農機の自動走行に関する安全性確保ガイドラインに準拠した能力が求められているのが現状で、ロボットを操作するオペレーターは圃場かその周辺の安全で状況が見渡せる位置で、監視しなくてはいけないようです。

最近では国土交通省が主導する
RTK-GNSS基地局のカバーするエリアを拡大させていくことで、自動運転農機や建設重機の精密な位置情報を取得できるサービスが今後の産業基盤としての普及を目指している段階ですが、このロボットトラクターはRTK-GNSS技術に対応しており、RTK-GNSSからのデータを利用した作業位置補正による高精度な自動運転を実現しています。

ロボットコンバイン

ロボットコンバインと聞くとなんだかとても強そうな名前です。

業界初の自動運転アシスト機能搭載のクボタ製の
コンバイン WRH1200A Agri Roboが発表されてまだ日が浅いこともあり、コンバインに至ってはまだ自動運転技術の進展がこれからだろうと思います。

こちらは無人運転には対応してはおらず、自動運転アシスト機能が搭載されている最新のコンバインになります。稲刈り作業はまだ完全自動化するほど単純な作業ではないようで、適切に作業を監視するオペレーターがコンバインに搭乗する必要があるようです。

コンバインになると、トラクターよりも稲穂から籾の部分を確実に収穫していく丁寧な作業を行うため、その分より複雑な処理を行わせる必要もあり、農機を動かすオペレーターが搭乗しながら常に作業状況を確認しなければならないというのが現状です。


ロボットコンバインに乗りながらロボットトラクターを操作

このお話は現在の日本の自動運転農機の安全ガイドラインを理解していないと新規性がどこにあるのかあまりピンとこないかもしれませんので、先に上節で前置きの紹介をしました。

では今回の主題のニュースの話題に移ります。

茨城県内の
農業生産法人・アグリ山崎を中心とする農水省の主導するスマート農業プロジェクトの実証グループがこの程コンバインとロボットトラクターをオペレーター1人で同時に動かしながら作業できるかの実証試験を始めたそうです。

上の節でも解説した通りで、ロボットトラクターの遠隔操作は、オペレーターが圃場内かその周辺のトラクターが目視できる安全な場所から行うことが安全ガイドライトで定められていることを逆手にとって、オペレーター自体は自動運転可能なコンバインに搭乗しながら、ロボットトラクターの動きも監視しようという試みが今回のニュースの画期性になっているようです。

今回の実証実験では67ヘクタールの圃場で、自動運転アシスト機能を有するロボットコンバインと、遠隔操作可能なロボットトラクターの二台で作業を進め、コンバインでの稲刈り直後に、後続のロボットトラクターで耕運作業を行い、稲穂部分以外の藁などをそのまま地面へとすき込んで分解処理をさせることを目指しているようです。

藁などの稲作で不要に出てしまう部分の処理にも色々とあり、稲刈りの終了後に土壌にそのまま混ぜ込む『すき込み』が一般的ですが、すき込みにも多くの労力と時間がかかり、全ての作業が完了するまでに翌年1月までかかることもあるそうです。すき込みの作業が寒いシーズンにまで長引くと土壌内ので分解反応が鈍化する分、翌春の多くのガス湧きが発生してしまうため、より早期にすき込み作業を完了してしまうことが、土づくりに好ましいとされています。またすき込みが早期に完了することで、冬期に別の農業作業を行う時間も増えたり、追加で与える基肥の量も削減できるメリットも生まれます。

自動運転農機の課題

現状の大きな課題はなんと言っても自動運転農機の価格にあります。

自動運転に必要な電波信号の送受信システムや位置センサーなどを実装する必要もあり、自動運転機能なしの従来の農機モデルと比べても、500万円以上割高な設備投資となるのが相場で、海外と比べると日本の農機市場はスタートアップなどの参入も少なく、価格競争によるスマート農機自体の価格がドラスティックに下がりにくいと考えられます。

日本型の小規模零細農業事業主には手が出しにくく、一般向けとした自動運転農機の普及には今後もなかなか至らない一方で、大規模な圃場を有する大きな農業事業者や農作業委託代行業者などが積極的にスマート農機を設備導入していくことで、日本の農業のデジタライズ化が進む流れになるかもしれません。

いずれにせよ、農業分野におけるオートメーション化の波が来ているため、世界各国で次世代農業技術の研究が活性化している状況ですので、日本としてもこれに遅れをとることなく新しい技術をどんどんチャレンジしていって欲しいと願うばかりです。

参考サイト

コンバイン×トラクター 稲刈り 耕うん 1人で同時に茨城の実証グループ・アグリ山崎

記事を書いた人

記事の担当:taconocat

ナンデモ系エンジニア

個人レベルで可能なハイテクx農業を日々模索しています。 時折スマート農業界隈の気になったニュースなどもゆるく情報発信する感じです。