[話題xマイクロロボティクス] 電池を使わない88mgの小型虫型ロボットの研究


※ 当ページには【広告/PR】を含む場合があります。
2020/08/30

現在の技術では様々な課題があるため、昆虫サイズのロボットを造るのは難しいとされていますが、世界各国の研究機関や大学で、先駆的な研究が精力的に進められています。

米国の南カリフォルニア大学の研究グループがこの度発表した論文の中で、電気的なエネルギー変換を介さない機構から機械エネルギーを取り出し、マイクロアクチュエーター(人工筋肉)に伝達することで単純な動きを生み出す昆虫型マイクロロボットの研究が話題になっていました。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

出図:
https://robotics.sciencemag.org/content/5/45/eaba0015

動きとしては、先方にだけ移動可能なシャクトリムシ程度でしかなく、すぐにでも産業分野へ応用できるほどの成果ではありませんが、電池を一切利用しない機構によって、現行のロボットのスケールを大幅にコンパクトにできる可能性を示唆する先行研究であり、今後も脱電池の動きが活発化してくるかもしれません。

今回の論文中に実際にロボットが動く動画を観ると、どうやって動いているのだろうかと気になってきたので、この論文を読み解くエッセンスを簡単にまとめます。


燃料vs.電池

現行の自律性のあるロボットやドローンなどはほとんどリチウム二次電池で動いており、我々の産業になくてはならない材料です。しかしエネルギーを内部に溜め込んでおく材料としてみると、電気的な原理に拘らなければ、かなりエネルギー密度の低い部類になります。

生物が動くための体内に蓄えている脂肪分や、化石燃料の化学的な燃焼などと比べると、リチウム二次電池へ単位体積・質量に潜在的に蓄えておけるエネルギーは格段に低いため、裏を返すと、電力を多く必要とするロボットなどはそれだけバッテリーのサイズを大型化しなくてはならないということになります。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

出図:
https://robotics.sciencemag.org/content/5/45/eaba0015, 横軸:重量エネルギー密度、縦軸:体積エネルギー密度

研究グループは、昆虫の動く仕組みに着想を得て、ロボットをより小型化するために、液体燃料の白金触媒を用いた燃焼サイクルから得られた熱エネルギーを、形状記憶合金(SMA)を利用した機械エネルギーに変換しようと考えたようです。


動的な機構

小さなロボットの中の限られた空間では、車のエンジンのようにガソリンをサイクル燃焼させてピストンを動かすような複雑な内燃機関は作れません。

今回の研究で超小型のエンジンの役割を担っているのが、
NiTi-Ptワイヤーです。

NiTi(ニッケルチタン)合金は形状記憶合金(SMA)と知られており、今回はワイヤー形状一本の伸縮によって、動作させているようです。このワイヤーに白金触媒をコーティングされており、メタノールを触媒燃焼させることで、ワイヤーに熱を与えると伸長し、冷却することで再び元の位置まで縮んで戻るような仕事のサイクルを行わせているシンプルな機構となっています。

ワイヤー付近の雰囲気中のメタノール濃度が大きくなると触媒燃焼が進み発熱が起こりワイヤー温度が上昇します。逆に、雰囲気中のメタノール温度が下がると発熱量も下がり、熱が供給されずワイヤーは冷却され温度が下がります。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

出図:
https://robotics.sciencemag.org/content/5/45/eaba0015

この加熱・冷却サイクル幅は、室温から70-80度の範囲で周期的に繰り返します。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

出図:
https://robotics.sciencemag.org/content/5/45/eaba0015

この温度周期性によって形状記憶合金ワイヤーが伸縮を繰り返すことで運動が起こるという仕組みです。

...では、肝心のワイヤー付近の雰囲気中のメタノール濃度はどうやって調整しているか?というのが今回のもっとも興味深い点です。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

出図:
https://robotics.sciencemag.org/content/5/45/eaba0015

このマイクロロボットの上部蓋(Lid)と可動シャッター(Sliding shutter)には、それぞれ噛み合う位置にスリットがあり、ワイヤーの収縮時にスリットオープンになり、メタノールはワイヤーに供給されます。

メタノールの触媒燃焼が進むと、ワイヤーが伸びることで可動シャッターが移動し、スリットクローズとなりメタノールの供給は止まります。

合同会社タコスキングダム|TacosKingdom,LLC.

出図:
https://robotics.sciencemag.org/content/5/45/eaba0015

この物理的サイクルを繰り返すことで、マイクロな内燃エンジン機関というものが実現していることが、とても画期的な研究内容でした。


参考サイト

An 88-milligram insect-scale autonomous crawling robot driven by a catalytic artificial muscle | Science Robotics

電池不要 メタノールで動く極小甲虫ロボットを開発 米研究

記事を書いた人

記事の担当:taconocat

ナンデモ系エンジニア

個人レベルで可能なハイテクx農業を日々模索しています。 時折スマート農業界隈の気になったニュースなどもゆるく情報発信する感じです。